日本プロセスワークセンター教員

松村 憲野元 義久

集団の無意識が変容のエネルギーになる(後編)

HOMETalks集団の無意識が変容のエネルギーになる(後編)

世代や価値観の変化が生む組織内の軋轢を解消し、VUCAの時代にも生き残れる、しなやかで強い組織をつくるにはどうしたらいいのでしょうか。後編では、その問いの答えとして、対立する同士の対話を通じて同じフィールドに融合させる、具体的なプロセスワークの活用場面を紹介します。さらに松村憲氏との対談は、組織を超えて、世界や社会の課題解決に向けたプロセスワークの体系「ワールドワーク」の可能性にも触れていきます。

ランクが異なる人々を融合させる「本音で語る物語」

野元
経営層からは「現場が自律しない」、かたや最前線からは「提言しても上が聞かない」と聞きます。それぞれ変化しよう・させようという意欲があっても上手くいかない。対立してしまう。この融和に向けて何かヒントはありますか。
松村
融和のためにすべきことの一つは、歴史を紐解くことだと考えています。たとえば、個人の人生という物語は、何かに導かれ、ご縁でつながってきた尊いものです。その視点で人生を振り返り、”私の生きる物語”に意味を認識すれば心は充足されます。同様に組織にも誕生からこれまでの波乱万丈な歴史があり、物語があります。歴史を紐解いて共有すると、経営層・現場に関わらず自然と”物語の次なる展開”を見ようとします。転換や再生かもしれないし、”終焉”もありえます。「ちゃんと終わる」というのも大切なことですから。
野元
確かに「物語=ナラティブ」は有効ですね。物語の共有は時間がかかるので、直接的に事業活動に関係しないことと考えられ、おざなりになっています。特に昨今は、リモートによるコミュニケーションに偏り、人や組織が持つ物語やコンテクストが扱われにくくなっています。
松村

私も危うさを感じています。これまでは同じ空間で過ごすことで暗黙にコンテクストが共有されてきましたが、リモートコミュニケーションではそれが脆くなる。共有できなくなった途端に空中分解する可能性があります。大事なのは「私たちをつないでいるものは何か?」という問いです。ここに気づいている組織は「つながりたい」「共有したい」という欲求を成就させる工夫をしています。だから、リモートという新しい選択肢が増えたのは悪いことではないでしょう。手段よりも「物語やコンテクストを軽んじていないか」「本音を話せているか」が重要です。

ですから、もし組織の上下で齟齬があるなら、まず経営層にアプローチできるといいですね。中間層からのアプローチだと手応えはあっても全体への変革を仕掛けるときには軋轢も大きい。経営層が一枚岩になれれば、比較的少ないパワーで変革を起こすことができます。

野元
それは私も実感があります。経営層にとっての物語は成熟度が違いますからね。
松村
そうなんです。経営のトップともなると、山で言えば空気が薄い状態で。本音で話せる人が少なくなって孤独になる。フィールドの変化を大局で掴んでビジョナリーになる一方、現場での顧客や競合とのやりとりというリアルになかなか触れられない。プロセスワークで「ランク」という考え方がありますが、”立場の違う人たち”の融合は大きな課題です。

松村 憲

誰もがフラットに「本音で話せるフィールド」を創出する

松村
これまでは"ランク"というパワーを得た人が、他者を叱咤激励し鼓舞して頑張らせる、という手法がまかり通っていました。やれば結果が出る社会環境だったので、結果が出れば報われた気にもなれたと思うんです。でも時代は変わってきました。そうしたプレッシャーは私たちの脳においてストレスでしかなく、放置すればメンタルヘルスの問題になりかねない。科学的にもダメだと証明されています。脳が萎縮すればパフォーマンスが落ちるのは当然ですから。
野元

パワーを濫用して”教え込む”より、何が必要か”気づかせる”方がパフォーマンスは上がるというのが実証されているんですね。

ここは多くのリーダーの逡巡ポイントだと思います。空気が薄くなると、自分の答を“教え込む”ことに焦ってしまう傾向が見受けられます。でも、“気づかせる”アプローチを織り交ぜられれば、一段上のリーダーシップが発揮できる。私たちも自覚的に、”教える”ティーチングやコンサルティングアプローチだけでなく、”気づかせる”コーチングやファシリテーションというスタイルを選んで提供しています。

松村
対人でもフィールドでも、ピリピリと硬直した場より、変化に気づいて皆で変えようとする柔軟な場の方が強い。そうなるには、対話を通じてランクをフラットにする制度や仕組みが大切です。それが組織の文化に根付けば、「限界に気づいたら自然と変化する」組織になっていきます。組織という生命体のDNAに組み込まれる感じですね。
野元
そうなるまでは、ひたすら「気づくこと」「意識すること」のためのプロセスをワークすることが必要というわけですね。
松村
プロセスワーカーはランクの自覚に関しては職人的に徹底しています。「ランクを外すこと」への執念は凄まじいかもしれません。かつてアメリカでプロセスワークのトレーニング合宿を受けている時に、先生の指示に不満が出て話が膠着したことがあったんです。その時に先生たちは、自分たちだけがソファに座って学生が床に座っていることに気づきました。「私たちはランクの高見から偉そうに話してるのかもしれない」と言って、生徒のいる床に来て一緒に座ったんです。すると苛立っていた生徒たちの感情も随分変化して、全員が輪になってより本音の対話を深める時間となりました。高いランクを自覚的に、かつ有効に使うロールモデルをその場で見て体験できたことは血肉になっています。
野元
組織のリーダーでそんなアプローチができる人がどれくらいいるでしょうね。
松村
ランクに無自覚なマネジメント以上の方々は多くいらっしゃって、その無自覚な部分は問題を作り出していることがよくあります。そんな時には、「あなたが新入社員の時に上司はどう見えていましたか」という話をすると、「新入社員の時は部長は怖しい存在でした…自分はそんな風に見られているということですか…」と気づかれることがよくあります。
野元
ただ、その人にも成功物語がある。「まずやってみろよ。そうすればわかることがあるから。自分はそうだった」という声が聞こえてきそうです(笑)。
松村
それはそれでいいんですよ。その人の物語、その背景が相手に伝われば、「頭ごなし」と思っていた部下からも見え方が変わる。相手のフィールドが見えると理解が進みますからね。要はランクに無自覚に上から強制するのが問題なんです。相手の立場にも立ちながら、フラットに自分の物語や本音を語るというのは大切なことです。
野元
自身の物語を自覚すれば行動も変わりそうですね。「変わらなくては」と思っている同世代にも福音になりそうです。

松村 憲×野元 義久

「足りないモデル」のリーダーシップのコツは存在否定をしないこと

野元
私も以前は「変わらなくては」と強迫観念的に感じていましたが、最近は少し変わったかもしれません。同じ方向に進んでいるけれど、辛さが少しなくなりました。私と同じようなエッジやメンタルモデルを持つ経営者とも、逆に異なる価値観や世代の人とも、相手の立場を想定し尊重しながら話せるようになってきた気がします。
松村
学びと成長は尽きませんよね。その究極が「タオイスト」で、気のいい流れ「龍脈=ドラゴンライン」を捉えて乗りこなし、恐ろしいほどの力を発揮するという…。
野元
恐ろしい力とは恐ろしい(笑)。「エルダー=長老」という存在には憧れています。ミンデル氏はそんな雰囲気をまとっていましたね。高いランクにありながら、チャーミングでフラットで。私たちの身近にもそんな方はいます。経営者が成熟し、エルダーが増えたら、企業も社会ももっと豊かになるはずです。
松村
野元さんがプロセスワークに興味を持たれた理由として「自己一致」をあげていましたが、まさに「自分が何をするために生まれてきたのか」「どうあるべきか」という根源的な問いに対する答えは、個の中ではなく、フィールドとの関係で導き出される相対的なものですよね。より野元さんも自由になられてきたということではないでしょうか?
野元
だからこそ、その問いを持ち続けることが大切なのでしょう。すぐ答えが出るわけではないし、変わることもあるし、面倒ですが。ただ、歳を重ね、経験を積む中で、「これなのかな」という実感が得られることが幸せにつながるのかなと思います。そして少しずつ近づいている気もします。
松村

コーチとして見れば、野元さんの自己一致度は高まってきていると思います。真面目な方なので、足りないという意識が成長の動力になって努力されてきたと思うのですが、「足りないモデル」になると「できなかった自分」も許せない。成長の喜びを感じつつ、「手放す」ことも大切です。

そして、「足りないという事実」と「足りない人」の評価を分けることも重要です。基本的に人は成長欲求があって、足りない部分を的確に指摘されたら頑張りたい人は多いし、求めているんですよね。たとえば、アイドルグループ「niziu」のプロデューサーのY.J.Park氏は、厳しいけれど決して存在否定をしない。フィードバックが的確で、そこを頑張れば一段上がれる実感があるので、若い人にも響くし信頼されているわけです。

野元
「足りないモデル」だと「上手くできない自分」が許せないので、自分を萎縮させてしまう。リーダーも上司も”傷つく人間”ですから、お互いに心理的安全性が担保された中で、よりよい対話ができるといいですよね。

野元 義久

対立する人々を「ワールドワーク」で同じフィールドに引き寄せる

野元
最後にあらためて、異なる価値観や考え方、あるいは利害が対立する関係にある人同士の対話において、プロセスワークでは具体的にどのようにアプローチをするのでしょうか。
松村
代表的なものは「ワールドワーク」というグループワークです。対立関係にある人々の立場や役割を切り替えて、本音を出し合うというものです。「飲みニケーション」などで本音を出し合えば一時的な気持ちのケアはできますが、本質的な問題解決には至りません。課題解決に力強く取り組むには、心理的安全性が担保された中で、互いの深層の本音に向き合うことが大切です。これができれば本当に組織は変わります。
野元
私もワールドワークは有効なアプローチだと思います。以前、ブルンジ共和国で起きたジェノサイド後の和平交渉のワールドワークの実録には感動しました。
松村
被害者と加害者がお互いの傷みを見せあい、罵り合い…、その後に相手に心を開く対応を見せた瞬間には心を打つものがありますね。時間をかけて、あらゆる論理や感情を受け止め、内省して赦すという過程に、人は憎しみ合いの中でも、つながりあえるという可能性や希望を感じると思います。そこには強い人間愛=ヒューマニティが生まれるのだと思います。
野元
まさに「赦し合い」ですよね。あの話を聞くと、組織内での齟齬も、きっと解決できるはずだと希望を感じます。
松村
はい、信じてほしいですね。ブルンジでのワールドワークはファシリテターがしっかり準備をしていて、精神的にもかなりハードだったと聞きます。まさに「Sitting in the Fire:火の中に座る」ですよ。感情が溢れ出て怒号も飛び交う場で、ファシリテーターは真ん中に居続ける。そのような状況だったのでしょう。
野元
対立が深いほど、ファシリテートは難しさを極めます。組織でも、社内の方が組織開発の担い手になって活動しようとして、苦しんでいるケースもよく伺います。
松村
社内の人がファシリテーターやプロセスワーカーとして社内の軋轢に向き合うのはしんどいと思いますね。ちょっとしたことで対立に巻き込まれやすく、専門用語で多重ロールという難しい立場を取ることになりますが、そのことに無自覚のまま継続すると当人が病んでしまう可能性もあります。外部の専門家を利用した方が安心・安全感は高まると思います。
野元
人材開発という個人のビジネススキル開発は内製化できても、人間の関係性を取り扱うのは、中の人も関係者なので難しいと思います。組織開発なら、外を介したアプローチが望ましいですね。
松村
もし社内で組織開発を行うなら、せめて社外にメンターが必要でしょう。組織開発のプロにスーパーバイズしてもらうと良いですね。私も引き続き、プロセスワーカーとして組織や社会の課題解決に貢献できればと考えています。
野元
はい、私も頼りにしていただけるよう、精進していきたいと思います。本日はありがとうございました。

松村 憲×野元 義久

撮影協力:重要文化財 自由学園明日館

GUEST PROFILE

松村 憲

(株)BLUE JIGEN代表取締役、バランスト・グロース・コンサルティング株式会社取締役、日本プロセスワークセンター教員、認定プロセスワーカー、国際コーチング連盟認定PCC

プロセスワーク理論を活用した組織開発コンサルティングやエグゼクティブコーチングの日本でのパイオニア。組織文化の変容や、組織における人間関係、葛藤解決などを得意領域とする。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想』、訳書にアーノルド・ミンデル著『対立を歓迎するリーダーシップ』『プロセスマインド』などがある。

前編へ戻る

一覧へ戻る