株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツ 代表取締役社長

蓮沼 孝野元 義久・小野寺 友子

全員の深層がつながり合う組織は
どうつくられるのか

HOMETalks全員の深層がつながり合う組織はどうつくられるのか

レゴ®ブロックを使って個人の価値観やビジョンなどを可視化するレゴ®シリアスプレイ®(以下、LSP)は、NASA、マイクロソフト、グーグルをはじめ世界中の企業や教育機関で提供されているメソッドです。ブリコルールでは、野元と小野寺がLSPの養成トレーニング修了認定を受けたファシリテータとして、人材・組織開発プロジェクトのセッションで活用しています。そこで今回は、日本で最初にLSPを紹介、唯一の専門ファシリテータのトレーニングを提供する、株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツの代表取締役社長を務める蓮沼 孝氏をゲストに迎え、LSPでも目指される“全員参加”を可能にする組織づくりについて語り合いました。

なぜあのチームだけ強いのか? 考え続けてたどり着いたメソッド

野元

私と小野寺にとって蓮沼さんはLSPの“師匠”ですが、ぜひこの機会に、蓮沼さんがLSPにたどり着いた道のりや、LSPを活かして実現したい未来などを中心にお伺いしたいと思います。

蓮沼

はい、よろしくお願いいたします。

野元

LSPとは、レゴ®ブロックを用いて、個人の頭の中でなんとなく思っていたり、または自分でも気づいていないような深層部分を可視化し、チームコミュニケーションや問題解決に役立てるためのメソッドですね。デンマークに本社を構えるレゴ社が2001年に完成させ、ロバート・ラスムセン氏による開発ストーリーや日本の企業での実践例などは、蓮沼さんの共編著書『戦略を形にする思考術 レゴ®シリアスプレイ®で組織はよみがえる』でも詳しく紹介されています。

蓮沼

2016年にこの本を発行して、日本でも一気にLSPが注目されるようになったと感じています。

小野寺

組織開発においてもキャリア開発においても、参加者が自身の深層にリーチすることの必要性を感じ、5年前にこのトレーニングを受けました。自分自身に向き合って、普段意識していない自分の思いに気づくことは、簡単なことではありません。レゴ®ブロックならば、より多くの人が楽しく、比較的抵抗なく取り組めるのではと思い、受講を決めました。

野元

私は、先に資格取得した小野寺のワークを隣で何度も観ていました。元々、「職場をチームにする」を掲げていて、表層的ではない本当のダイバーシティを支援したいと願っています。LSPを使うと、左脳的表現が優先しがちな人でもググっと内面からの語りを始めていくんですよね。そしてそれが連鎖していく。「このマジック(笑)を自分も駆使したい!」と小野寺に続きました。

蓮沼さんは、三菱商事、外資系ヘッドハンター、グロービス経営大学院、マレーシアでの企業経営というご経歴とうかがっていますが、どんな経緯でLSPに携わるようになったのでしょうか。

蓮沼

原点にあるのは、1998~2004年にマレーシアを拠点とする会社のプラスチック成形事業部門の社長を務めたときの経験です。マレーシアのほかタイ、フィリピンに5つの事業所があり、私は各事業所を1週間ごとに巡回してマネジメントしていました。当時、みんなと協議して決定したことが、次に私が訪れたときにまったく実施されていない…ということが珍しくありませんでした。

しかし、マレーシアのジョホールバルにある事業所だけ様子が違ったんです。上層部の3人は、マレーシア人の事業所長、中国人の工場長、インド人の営業部長という様々な人種の人たち。彼らは成果や学びに対してものすごく貪欲で、学んだことは周囲にも伝える。大きな受注が入ると事業所全体で盛り上がり、「みんなで頑張ろう」という空気になるんですよ。

職場のヒエラルキーが強いと、上司に対してなかなか意見を言えません。しかし、ジョホールバルの事業所だけはヒエラルキーによる壁がなく、バングラデッシュやインドネシアからの臨時工員も含め、現場スタッフも改善案を出して上層部がそれをちゃんと取り入れていました。それがチーム力の違いを生んでいたのだと思います。

会社を退いて帰国してからも、「あのようなチームはどうしたらつくれるのか」と思案していたところに出会ったのが、LSPだったのです。

蓮沼 孝氏

蓮沼

その時、私はNPO法人九州・アジア経営塾にて次世代リーダーを育成するプログラムの企画・運営を担当していました。当時日本で唯一のLSPファシリテータだった石原正雄さん(現在ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツ取締役)と知り合い、「果たしてレゴ®ブロックで有益なことができるのか?」と懐疑的に思いつつも、九州・アジア経営塾で演習を実施してもらったのです。2008年の1月頃だっと記憶しています。

私も受講者として取り組みました。ブロックを手に作品づくりをするうちに、頭の中にあった曖昧なものがだんだん明確になっていったのです。とても驚きました。これは組織が抱える様々な課題に対応できるのではないか!? 特に、企業の中で伝統的な会議では全員の意見が反映されていない、これはそのような会議のやり方も変えてしまう!! そう直感したのです。

「私も習いたい」。石原さんにそう言うと、ちょうど4月にデンマークでトレーニングがあり、トレーナーはプログラム開発者であるロバート・ラスムセンさんとのことで、すぐさま手を挙げてデンマークでトレーニングを受けることになり、それから、LSPにのめり込んでいきました。

蓮沼 孝氏、野元 義久・小野寺 友子

「リーダーがすべてを決める」が困難な時代にフィット

野元

その年の10月、蓮沼さんは石原さんとロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツを設立し、日本でのLSP実践やファシリテータ育成に尽力されてきたわけですね。メンバー全員(100%)が自分のもつアイデアをすべて(100%)出し切る、いわゆる「100/100」を可能にするLSPなら、あのジョホールバルの夢のチームが再現できるのではないか、と。

蓮沼

ただ、最初のうちはなかなか受け入れられない機運がありました。トップがすべてを決めメンバーはそれに従うという風潮が、まだ根強くありましたから。

野元

日本人特有の発言しにくさや忖度みたいなものもありそうです。古くは山本七平さんが「空気の研究」でも書かれていますが、会議の雰囲気という魔物がみんなの発言を抑え込んでしまうという事象は今でも少なくありません。

蓮沼

確かに日本企業には、飲み会では一緒に盛り上がるのに、会社の会議になると上司に意見が言えなくなるという、独特な雰囲気があります。長年、飲み会や麻雀の場を活用して、察したり空気を読んだりするハイコンテクストカルチャー、今でいう、忖度の文化が育まれてきましたからね。

一方、外資系企業の方々は、コンテクストに頼らずはっきり言葉にします。また、職場への定着より仕事のアウトプットが重視され、人材の流動性が高いという特徴があります。そういう組織のマネジメントで重要なのは、明確なゴールやビジョンを全員で共有することです。ですから、当初より外資系企業にはLSPが受け入れられやすかったと思います。

蓮沼 孝氏

蓮沼

しかし、近年、日本でもVUCAや多様性の時代と言われるようになると、これまでのようにリーダーがすべてにおいて適切な判断をすることは難しく、専門性をもったメンバーが力を合わせる必要があります。そうした変化の中で、組織を構成する一人ひとりの意見を十分に引き出すことができるLSPの需要は、確実に高まっていると感じています。

野元

ようやく時代がLSPの必要性に追いついてきた感じですね。

蓮沼

現在、日本国内で養成トレーニング修了認定を受けたファシリテータの数は約1050人に達しました。今後の需要の伸びに応じて企業、教育、行政・地方自治体などへ幅広くサービスを提供していくために、さらなるファシリテータ養成や既修者のメンテナンスに尽力していきたいですね。

「訊く・聴く」から始めよう

小野寺

ブリコルールでは、理念策定や組織課題解決のご依頼をいただいた際、そのプロセスにしばしばLSPを取り入れています。先日もあるお客様のプロジェクトで、LSPを活用して各チームの「ありたい姿」を全メンバーで議論するというセッションを実施したところ、「前向きに参加できた」「楽しく意見交換ができた」などの感想をいただき大変好評でした。

小野寺 友子

蓮沼

組織にどんな問題があるか、当事者にはなかなか見えないものです。しかし、LSPでワークショップを実施すると、隠れていた問題がどんどん外に出てくるのですよね。問題には必ずチャンスが同居しているはずなので、それを引っ張り出すだけでも大きな意味があります。さらに大事なのが、ファシリテータが指摘するのではなく「自分で気づく」ことです。自分で気づいたことは、自分で解決しようとしますから。

外部者が社内のことをあらゆる角度からリサーチして問題とその解決策をレポートするという旧来からのコンサルティング方法では、一過的な効果はあるものの、なかなか持続的な取り組みにはつながらないものです。メンバーの主体的な力を引き出して解決に導くLSPは、いわば「問診で自然治癒力を高めるお医者さん」みたいなものではないでしょうか。

野元

自らでその力を高めていくことを目指した「組織開発の支援」を掲げている私たちにはとてもフィットします。

先日、私たちの経営合宿で「創業からの軌跡」をテーマにLSPを実施しました。私も久々に一人の参加者になってみると、自分の深層にあったものが丁寧に作品へと表出していくプロセスをあらためて実感しました。まさにフロー状態で、時の経つのを忘れるほどに。

そして、自分の作品に対して他のメンバーからたくさん質問してもらえることがすごく心地よかったのです。仕事柄、収束させることを意識しがちで、普段は自分に対してあんなにたくさんの質問をされることがないので、シンプルにとても嬉しかったのです。興味を持ってもらえる、聴いてもらえる、自分の考えも尊重されている、という実感がありました。質問し合うことは、大きな効果がありますね。

野元 義久

蓮沼

すばらしい感想ですね。たまに「LSPは普段自分がしゃべっていることを作品にして表現するものですよね」と言われますが、それができるならLSPはやる必要はありません。そうではなく、まずブロックを触りながら自然と出来上がる作品をつくり、それを基に自分と対話したりほかの参加者から質問されて考えたりすることによって、「ああ、自分はこれが言いたかったんだ」と発見することが、LSPの醍醐味なのです。ですから、おっしゃるように質問の効果は大きいと思います。

「きく」には「訊く」と「聴く」の2種類があり、どちらも相手を尊重しているという意思表示と言えます。LSPはその両方がいっぺんにできる稀有な手法なんですよね。人には承認欲求があり、訊いてもらう・聴いてもらうことで、自分自身を認めてもらったという気持ちが生まれるものです。

野元

そう考えると、リーダーはメンバーに「意見を言って」と言う前に、まず自らがメンバー対して訊く・聴く姿勢をもつことが大切ですね。

蓮沼

そう思います。以前、「うちはオープンドア・ポリシーで経営していて、部下には『いつでも聴きに来い』と伝えている」と言う経営者がいましたが、私は思わず「それは『脅迫』ですよ」と言ってしまいました。つまり、地位の高い人からそういわれても、両者の間には「見えない障壁」があって、メンバーは本気で受け取ることはできないものです。リーダー層はそう自覚することが大切でしょう。

「わくわくする職場」をブロックでつくってみたら…

野元

本日、レゴ®ブロックを用意しました。みんなで何かつくってみませんか。

蓮沼

いいですね。「わくわくする職場」をテーマにやってみましょう。

(5分間でそれぞれが「わくわくする職場」からイメージするものをブロックで制作。各作品に対して、まず制作者以外の一人が解釈を説明。次に、制作者が実際にどんなことを考えて制作し、他者の解釈からどんな新たな気づきを得たかを話しました。以下、蓮沼氏の作品に対する対話をご紹介します)

レゴ

野元

蓮沼さんの作品について、私なりの解釈を話してみます。これは…海ですね。中央の黄色い頭をもつのがリーダー艦で、脚があって歩いているようにも見えますが…波を切りながら海を進んでいるところでしょうか。その後ろに艦隊が追随し、前方にはちょっと障害もありながら、一方向に進んでいく力強いわくわくの動力を感じます。いかがでしょうか。

蓮沼

実は、先頭にあるのは自分たちが目指すビジョンで、中央にいるリーダーは「この方向に行きたいな」と思った瞬間、足が動き出して「早く向かいたい、待てないよ」となっているところです。その先には越えなくてはならないハードルもありますが、そばでサポートしてくれる人もいる。また、後方にあるのは、リーダーが勝手に動き出しても「基盤は自分たちが支えているから安心して飛び込んでいいよ」という組織がある。だから思い切りチャレンジができる。そんな職場をイメージしてわくわくしながら作りましたね。最初に野元さんが、私の作品を通して語ったことは、他者から観た別の視点なのです。同じ作品を異なる視点で観ることによって、アイデアを拡げることに寄与しています。こういう芸当?(笑)ができるのもLSPの奥の深さと言っても良いでしょう。

蓮沼 孝氏

野元

最後に、蓮沼さんは今後どんなことに取り組んでいかれるか、お教えください。

蓮沼

私のレゴ®ブロックの作品にも表れていますが、LSPの活動やコミュニティについては核となるものができてきたので、新しい領域への挑戦も視野に入れています。教育分野や地方創生など、様々なことができそうです。

また、日本国内のみならず、アジア各国へも展開していく考えです。現在、インドでのファシリテータ・トレーニングを、シンガポールのパートナーと協働して提供しています。上下関係が厳しい韓国での展開にも興味があります。ほかにもマレーシア、タイ、ベトナムなどとの国際的なコラボレーションを推進していきたいですね。

野元

先日、京都でロバートさんとお会いした時に、「良い質問のコツ」を尋ねたところ「自分でたくさんのレゴ®作品をつくり、その作品と対話していくことを繰り返すといい」とアドバイス頂きました。目から鱗でした。作る経験から学ぶという構成主義の思想も垣間見えたように思います。

ロバートさんも蓮沼さんもお一人の人間としてとてもチャーミングで魅力的です。私たちの提供サービスに馴染むLSPを、一人のファシリテータとして、そのためにまずは一人の人間として楽しんで活かしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

蓮沼 孝氏、野元 義久・小野寺 友子

GUEST PROFILE

蓮沼 孝(はすぬま たかし)

東京都生まれ。早稲田大学卒業後、三菱商事に入社。化学品の輸出入、ニューヨーク勤務を経て、ペンシルバニア大学(Wharton大学院)に留学。外資系のヘッドハンター、グロービズ経営大学院の法人営業とカリキュラム開発に従事後、マレーシアの企業へ転職(Texchemグループ・プラスチック事業部門の経営者)。帰国後、九州・アジア経営塾のプログラム運営に関わり、レゴ®シリアスプレイ®に出会う。現在、株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツ代表取締役。著書に『成功するキャリアデザイン――「やりたい仕事」は自分でつくれ』(共同執筆・日本経済新聞社刊)、『戦略を形にする思考術 レゴ®シリアスプレイ®で組織はよみがえる』(共同編集・徳間書店刊)。

株式会社ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツ:https://www.seriousplay.jp/

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