スタンダップコメディアン・俳優
清水 宏野元 義久
一人で舞台に立ち、笑いの中に社会風刺や皮肉などを織り交ぜながら、さまざまな主張を語る「スタンダップコメディ」。海外で発展してきたお笑いですが、近年、日本でも注目度が高まっています。今回の対談にお招きしたのは、そんなスタンダップコメディの第一線で活躍する清水宏氏。清水氏の持ち味である観客の心のつかみ方や主張の伝え方などから、ビジネスシーンにも役立つ「場のファシリテーション」のコツを学ばせていただきました。
それは楽しみです。
清水さんにお声掛けさせていただいたのは、単にファンとしてお会いしたかったからだけでなく、ビジネス現場で重要性が増しているファシリテーションに、スタンダップコメディのスキルが役立つのではないかと思ったからなんです。
企業のトップやミドルにとって、プロジェクト活動や会議などの場でメンバーの意欲を喚起し問題解決へと導くファシリテーションについては多くの方が悩まれています。私自身も、顧客企業に対してコンサルティングを行ううえでファシリテーション力は非常に重要なので、常に新しい考え方や手法を学んでいます。
清水さんのスタンダップコメディにいつも力強く惹きつけられます。何かファシリテーションのヒントがあるのではないか。ジャンルは違うけれど、だからこそ新しい視点が得られるのではないか。そんな期待をして、対談を依頼させていただきました。
ひとことで言えば「主張のある笑い」ですね。日本の漫談と比べるとわかりやすいのですが、漫談は文字通り漫然と話すのに対し、スタンダップコメディは「I think~」と主語を明確にして主張をもって話します。
例えばアメリカでスタンダップコメディというものが広がったきっかけの1つは、1960年代頃の公民権運動との結びつきがあると言われています。少数派が多数派に向かって意見を言う手段として、演説に笑いが盛り込まれたんです。
スタンダップコメディの舞台に立つ清水氏
僕はライブを、自分の言いたいことを伝えるというより、お客さんとの「対話」だと思ってやっています。お客さんが望んでいることと僕がやりたいことが出会って、何か新しいものが生まれる。結果として当初の予定とは変わっていたときのほうが、「やれた」という手応えを感じますね。
スタンダップコメディは「人間とどう出会っていくか」なんです。「出会う」とは、「観ている人の心をつかんで取り込む」と言い換えてもいいかもしれません。観客との「出会い」がうまくいかないと、同じことをやっても笑いが半減してしまいます。
そう、相手とシンクロするような状態になればもう大丈夫です。自分の言葉のチョイスも相手に合うものが自然と出てきて、何を言っても笑ってくれるようになります。
それでも、言葉のチョイスを間違えたり言い過ぎたり失敗することはあります。そんなとき、以前なら失敗を隠して進めていましたが、今は率直に「ごめん間違えた」と言ってやり直します。シンクロできていれば、いくらでも訂正がきくんです。
自分のストロングポイントは出会いの部分だと自負していますが、一方で、中身の作り方は試行錯誤してきました。
海外の舞台でスタンダップコメディを始め、最初はとにかくウケればいいと思ってやって高い評価をいただいたんですが、次第に行き詰るようになったんです。「出会う能力は抜群。あとは何を訴えたいかを見たいね」と言われたりして、主張のある笑いとしての内容の乏しさを痛感しました。そこからベテランのやり方に学び、スタンダップコメディとはどういうものかの理解を深め、自分のスタイルを手探りしてきました。
そうですね。一人ひとりの価値観が多様化するなかで、リーダーはメンバーの多様性を認めつつ、組織としては1つに束ねていかなくてはならない。そこにはやはり対話の力が必要だと思います。
リーダーにとっては、違和感を表明して衝突を起こしてまで何かを変えることより、違和感を隠して波風を立てずにやり過ごすほうが楽でしょう。しかし、それでは組織は発展しません。難しさのなかで葛藤するリーダーの皆さんを、情理の両面からいかに支援していくかは、私たちブリコルールがコンサルティングを行うときの大きなテーマとなっています。
意見を言い合えたりアイデアを交換したりできる職場にするなど、ビジネスにもスタンダップコメディのスキルを活かせるところがあるとしたら嬉しいですね。
実は、スタンダップコメディのようなことは、誰にでもできるんですよ。僕が今スタンダップコメディアンとしてやれているのは、ちょっと人より頑張ってきただけのこと。すべて後天的に身につけたものなんです。手法を知って、磨いていけば、そんなに難しいことではないと思います。
1980年代の小劇場ブームのなかで俳優としてキャリアをスタート。その後ピン芸人としてラジオ、テレビ、舞台で活躍。2010年からは英語でスタンダップコメディを開始。イギリス、台湾、韓国、アメリカ、カナダ、ロシア、メキシコなど海外のさまざまなコンテストに参加し、高い評価を獲得。2016年、ぜんじろう、ラサール石井と共に「日本スタンダップコメディ協会」を設立し、会長に就任。スタンダップコメディの日本全国ツアーなどを行う一方で、海外でも現地の言葉でのコメディに取り組んでいる。ひとり舞台芸術会代表。
清水宏website https://shimizuhiroshi.net/
日本スタンダップコメディ協会 https://standupcomedy-japan.com/