スタンダップコメディアン・俳優

清水 宏野元 義久

スタンダップコメディから学ぶ
「場のファシリテーション」

HOMETalksスタンダップコメディから学ぶ「場のファシリテーション」

一人で舞台に立ち、笑いの中に社会風刺や皮肉などを織り交ぜながら、さまざまな主張を語る「スタンダップコメディ」。海外で発展してきたお笑いですが、近年、日本でも注目度が高まっています。今回の対談にお招きしたのは、そんなスタンダップコメディの第一線で活躍する清水宏氏。清水氏の持ち味である観客の心のつかみ方や主張の伝え方などから、ビジネスシーンにも役立つ「場のファシリテーション」のコツを学ばせていただきました。

笑いが衝突を和らげ、主張を伝わりやすくする

野元
清水さんのスタンダップコメディの大ファンです。先日もこの会場で、三島由紀夫と太宰治を題材に文化論と笑いをミックスさせたライブを観覧し、笑って、唸って、と存分に楽しませていただきました。そんな清水さんとの対談が実現し、今たいへん感激しています。
清水
ありがとうございます。わりと「好き」って言われると、こっちも好きになっちゃうほうなんで、今日はトークが弾みそうです(笑)
野元

それは楽しみです。
清水さんにお声掛けさせていただいたのは、単にファンとしてお会いしたかったからだけでなく、ビジネス現場で重要性が増しているファシリテーションに、スタンダップコメディのスキルが役立つのではないかと思ったからなんです。

企業のトップやミドルにとって、プロジェクト活動や会議などの場でメンバーの意欲を喚起し問題解決へと導くファシリテーションについては多くの方が悩まれています。私自身も、顧客企業に対してコンサルティングを行ううえでファシリテーション力は非常に重要なので、常に新しい考え方や手法を学んでいます。

清水さんのスタンダップコメディにいつも力強く惹きつけられます。何かファシリテーションのヒントがあるのではないか。ジャンルは違うけれど、だからこそ新しい視点が得られるのではないか。そんな期待をして、対談を依頼させていただきました。

清水
僕自身にも何か発見があるかもしれない、と思って引き受けさせていただきました。このようにフィールドを超えて社会とつながる機会はたいへんありがたいです。

清水 宏氏×野元 義久

野元
清水さんは2016年に「日本スタンダップコメディ協会」を設立されました。1人のスタンダップコメディアンであることにとどまらず、幅広く活動されていますね。
清水
協会を立ち上げた大きな理由は、海外に比べると日本ではスタンダップコメディがまだよく知られていないので、演じる人も、観る人も、もっと増やしていきたいと考えたこと。特に、若い世代がスタンダップコメディを知るきっかけを作っていけたらと思って活動しています。
野元
最近注目されるようになってきましたが、改めて、そもそもスタンダップコメディとはどういうものでしょうか。
清水

ひとことで言えば「主張のある笑い」ですね。日本の漫談と比べるとわかりやすいのですが、漫談は文字通り漫然と話すのに対し、スタンダップコメディは「I think~」と主語を明確にして主張をもって話します。

例えばアメリカでスタンダップコメディというものが広がったきっかけの1つは、1960年代頃の公民権運動との結びつきがあると言われています。少数派が多数派に向かって意見を言う手段として、演説に笑いが盛り込まれたんです。

野元
主張にも少し笑いを入れることで、衝突が和らぎそうですね。
清水
おっしゃるとおりで、人種や主義、文化が異なる者同士が共有できるものとして、笑いがうまく機能するんです。お互いに異なる面はあっても同じことで笑えたときに、ああこの人も同じ人間なんだなと感じられる。その共通点に立つことで主張が伝わりやすくなるのだと思います。
野元
なるほどぉ!
清水
よく「お前の言っていること変だぞ」「変わったヤツだな」などと少数派を「いじる」ことで笑いをとることがありますよね。これは多数派の共通項を確認してとる笑い、いわば多数派の安心のための笑いです。しかし、スタンダップコメディは少数派が多数派に向かって「それおかしくない?」と言う。同じ笑いでも、その点は根本的に違います。
野元
なんとなくモヤモヤを感じていた社会の出来事や人物をスパッと斬ってくれるから、ライブを観ていて痛快な気持ちになるんですね。

スタンダップコメディの舞台に立つ清水氏

スタンダップコメディの舞台に立つ清水氏

相手としっかり「出会う」には、準備が大事

清水

僕はライブを、自分の言いたいことを伝えるというより、お客さんとの「対話」だと思ってやっています。お客さんが望んでいることと僕がやりたいことが出会って、何か新しいものが生まれる。結果として当初の予定とは変わっていたときのほうが、「やれた」という手応えを感じますね。

スタンダップコメディは「人間とどう出会っていくか」なんです。「出会う」とは、「観ている人の心をつかんで取り込む」と言い換えてもいいかもしれません。観客との「出会い」がうまくいかないと、同じことをやっても笑いが半減してしまいます。

野元
出会い方は、相手がどういう人たちかによって変えているんでしょうか。
清水
そうですね。ですから事前の準備は不可欠です。何を期待されて招かれ、どんな観客に対して行うのかをリサーチし、ネタも選びますね。
野元
その点はビジネスの世界にも通じるものを感じます。私たちがコンサルティングを行う企業も組織の特徴や課題はそれぞれ異なるので、訪問前にはできるだけリサーチして背景を掴もうとしたり、その現場にとってわかりやすい話の組み立てを編集したりしています。もっと広げて言うと、企業のトップやリーダーが社内メンバーに対して何か伝えるときも、相手をよく知ったうえで伝え方や伝える内容を準備することがとても大事ではないかと思います。
清水
僕の場合、ライブ当日の準備も重要で、幕が上がる前段階で観客と出会っておくのが鉄則です。例えば、観客の入場をこっそり覗いてどんな方たちなのかを観察したり、そこでお客さんに見つかったらアイコンタクトを取って距離を縮めておいたりします。

清水 宏氏

野元
ライブ開始後の出会いのコツはありますか。
清水
例えば、身体的に硬くなっているのは心を開いていない状態なので、腕組みをしている方がいたら、いろんな言葉掛けをして腕を解いてもらうように誘導しますね。あとは、全員が僕のことを好きになっている状態を目指して、お客さん一人ひとりに「触れる」。つまり僕が投げた言葉にどんなエネルギーが返ってくるかを感じながら、内面に触れることで周波数を合わせていくんです。
野元
相手とシンクロしていく。
清水

そう、相手とシンクロするような状態になればもう大丈夫です。自分の言葉のチョイスも相手に合うものが自然と出てきて、何を言っても笑ってくれるようになります。

それでも、言葉のチョイスを間違えたり言い過ぎたり失敗することはあります。そんなとき、以前なら失敗を隠して進めていましたが、今は率直に「ごめん間違えた」と言ってやり直します。シンクロできていれば、いくらでも訂正がきくんです。

野元
それはビジネスシーンに置き換えても、非常に大事なお話ですね。組織のトップやリーダーが自分の間違いを認めることはなかなか難しいものですが、そこを自ら開示することが、職場の風通しやメンバーの挑戦意欲にも影響し、強い組織になっていくのだと思います。

野元 義久

ちょっとした違和感を流さない

清水

自分のストロングポイントは出会いの部分だと自負していますが、一方で、中身の作り方は試行錯誤してきました。

海外の舞台でスタンダップコメディを始め、最初はとにかくウケればいいと思ってやって高い評価をいただいたんですが、次第に行き詰るようになったんです。「出会う能力は抜群。あとは何を訴えたいかを見たいね」と言われたりして、主張のある笑いとしての内容の乏しさを痛感しました。そこからベテランのやり方に学び、スタンダップコメディとはどういうものかの理解を深め、自分のスタイルを手探りしてきました。

野元
今はどのように主張を構成していらっしゃるんでしょうか。
清水
まず社会の出来事には常にアンテナを立てていて、そのなかで感じるちょっとした違和感や怒りを主張の出発点にしています。それをただ怒るだけでは笑えないので、ちょっと違う角度から斬っていくんです。よくやるのは「例え」ですね。政治家が記者会見で自身の事務所の不正を「秘書のやったことです」と釈明する様子を、自分の粗相なのに「私の身体が勝手にやったことだ」と釈明する様子に置き換えて演じて見せ、それっておかしなことじゃない?と投げかける、といった具合です。他にも歴史上の人物や出来事、漫画のキャラクターを引き合いに出したりします。

清水 宏氏×野元 義久

野元
日本人にとっては、主張をもつことも、そこに笑いを織り交ぜることも、なかなか難易度が高そうです。
清水
何も「世界平和のために」とか大仰なことを言う必要はないんですよ。日常のなかでちょっとした違和感に目を向ければいいんです。スタンダップコメディではオープンマイクといってアマチュアの人が舞台に上がって話す機会を設けることがあるんですが、海外では子どもも参加します。「先生や友達がこう言うけれど、自分は違うと思うので、ちょっと聞いてもらえますか」と出てきて話すんです。
野元
当たり前のように行われていることでも、「あれ?」と違和感をもったら流さないことは大切ですよね。同じようなことを、私も仕事でさまざまな企業に関わるなかで感じます。特にリーダーが違和感を放置し続けてしまうと、いつの間にか取り返しの付かない状況になっているというケースが少なくありませんから。
清水
なるほど。リーダーとして必要なことも、時代とともに変化しているんでしょうね。今は対話力のあるリーダーシップが求められるという話も聞きます。
野元

そうですね。一人ひとりの価値観が多様化するなかで、リーダーはメンバーの多様性を認めつつ、組織としては1つに束ねていかなくてはならない。そこにはやはり対話の力が必要だと思います。

リーダーにとっては、違和感を表明して衝突を起こしてまで何かを変えることより、違和感を隠して波風を立てずにやり過ごすほうが楽でしょう。しかし、それでは組織は発展しません。難しさのなかで葛藤するリーダーの皆さんを、情理の両面からいかに支援していくかは、私たちブリコルールがコンサルティングを行うときの大きなテーマとなっています。

ファシリテーションの力は磨けば身につく

野元
本日お話を伺って、清水さんのスタンダップコメディがなぜ観客を惹きつけるのか、少しわかってきました。相手をよく観察して情報を引き出しながら、想像力をもって相手と出会う。そしてちょっとした違和感を流さず、わかりやすく主張を伝えていく。笑いも交えて。要は「主張をもって、出会う」ということですが、企業の現場をファシリテーションしていくときにも重要なキーワードだと再認識しました。
清水

意見を言い合えたりアイデアを交換したりできる職場にするなど、ビジネスにもスタンダップコメディのスキルを活かせるところがあるとしたら嬉しいですね。

実は、スタンダップコメディのようなことは、誰にでもできるんですよ。僕が今スタンダップコメディアンとしてやれているのは、ちょっと人より頑張ってきただけのこと。すべて後天的に身につけたものなんです。手法を知って、磨いていけば、そんなに難しいことではないと思います。

野元
清水さんのライブを1本見るだけでもヒントをもらえるでしょうし、スタンダップコメディの出会い方や主張の作り方を解きほぐせたら、企業のリーダー向けに研修ができるかもしれない。
清水
それ面白いですね。
ビジネスに応用できる可能性もありますし、学校教育のいじめ問題や自己表現などに対してもスタンダップコメディができることがあるんじゃないかなと思っています。これからの人たちのために、自分のもっているものを役に立てる機会があれば、ぜひ取り組んでいきたいですね。
野元
今後も幅広いご活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

清水 宏氏×野元 義久

GUEST PROFILE

清水 宏(しみず ひろし)

1980年代の小劇場ブームのなかで俳優としてキャリアをスタート。その後ピン芸人としてラジオ、テレビ、舞台で活躍。2010年からは英語でスタンダップコメディを開始。イギリス、台湾、韓国、アメリカ、カナダ、ロシア、メキシコなど海外のさまざまなコンテストに参加し、高い評価を獲得。2016年、ぜんじろう、ラサール石井と共に「日本スタンダップコメディ協会」を設立し、会長に就任。スタンダップコメディの日本全国ツアーなどを行う一方で、海外でも現地の言葉でのコメディに取り組んでいる。ひとり舞台芸術会代表。

清水宏website https://shimizuhiroshi.net/
日本スタンダップコメディ協会 https://standupcomedy-japan.com/

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