- 石原氏
- 仕事をしていく中でその人の能力は伸びていきますが、結果が同時に伸びるかは別です。しかしミドルマネジャーは結果だけをみて能力の評価をしてしまいがちです。そうした問題はどう解決していったらいいのでしょうか。
- 小野寺
- その下地となる考え方がインクルージョンなのではないでしょうか。まずは双方がオープンになることが必要です。みよう、みてもらおうとしなければ、能力もポテンシャルもみえません。感情という土壌を耕す作業から始める必要があります。
- 石原氏
- やっぱりそれは必要なことですね。世界的に活躍するグローバル企業の人事の人たちは、人に心を開いてもらうための技能を真剣に学んでいます。欧米ではアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に気付き、それを取り扱う研修が多く行われています。話を聞く側に何らかのバイアスがあったら、相手のことを理解するなんて絶対にできません。自分のバイアスを超えて相手をみる訓練が必要、ということです。リーダーシップ開発というのは、最終的にはそこに行き着くものだと考えています。その点について、日本はかなり世界に遅れをとっているように思います。
新しい地平が見えるところまで
クライアントと伴走する
- 小野寺
- 日本の企業組織はこの20年間でどのように変化してきたと感じますか。
- 石原氏
- 変わらない企業もまだまだ多くありますが、変わってきたと感じる部分もあります。世の中を良くしたいと思う力がビジネスになる時代になってきました。逆に、そうした思いがない会社は生き残れない時代になってきたとも言えると思います。社内のことばかりを考えてマーケットを見ていない会社は生き残れない、ということはどの企業も気付いています。遅かれ早かれ全ての企業は変わっていくと思います。
- 小野寺
- ご自身の仕事については、どのように捉えていますか。
- 石原氏
- 私自身は、新しい課題をとらえ、その構造を解明し、人事の人たちや働く個人に伝えていくのが自分の仕事だと考えています。一方、ブリコルールはチェンジエージェントの側だと思います。どこの会社も自分たちだけの力で変革を起こすのは難しいです。変革のきっかけを一緒に創り、一緒に考えて、きちんと最後まで伴走してくれる存在が必要です。実際にブリコルールのワークショップを受けた企業から「何をやったら変わるのかということを本気で考えてくれる」という感想を聞いています。そんなみなさんの熱量が、職場を変える原動力になるのではないでしょうか。私は社会に対して時に新たなものを示し、警鐘を鳴らしていくような存在ですが、ブリコルールには新しい地平が見えるところまで皆を連れていってくれる存在となることを期待しています。本気で一緒になって考えてくれる伴走者に出会えた組織は本当にラッキーだなって思います。
- 小野寺
- 本当にやりたいことがあるクライアント企業のためにとことんお付き合いしたいですし、それにはお互いに覚悟がないといい仕事はできないと思っています。
- 石原氏
- 本当に変わるってそういうことですよね。腹を括らないと変われない。お互いに覚悟しないと進めないと思います。
自分らしさ、その人らしさを
大切にする社会へ
- 石原氏
- 国内国外を問わず様々な企業や組織の取り組みを数年に渡って見てきた身としては、今、ばらばらに見えていた現象が1つの方向に集約されつつあると感じています。オーセンティシティやインクルージョンが尊重されない環境には、結局のところ人は集まってきません。これだけ成熟した世の中では、それ以外に組織が人を惹きつける手段はないと思います。
- 小野寺
- 最近私が仕事をしていてよく耳にする言葉は“チェンジ”や“チャレンジ”ではなく“ビーユアセルフ”といった言葉です。組織のために働きながら、あなた自身であれ、ということですよね。
- 石原氏
- 組織のために個人が変わるのではなく、個人個人が一番いいと思うことの実現を支援する、という形でしか会社は成立しない時代になってきているように感じます。人と向き合う仕事をするというのはそういうことであるべきだと思います。
- 小野寺
- マネジメントにおいても、大切なのは成果や行動はもちろんですが、現場で働く人々のメンタルモデルまでどうアプローチしていくか、ということなのではないかと強く感じますね。
- 石原氏
- 本当にその通りだと思います。私たちが銀行にいた時代とは、全然違う世界になってきましたね。ただ、あの頃の経験があるからこそ、こうして今も走り続けるエネルギーがあるようにも感じます。
- 小野寺
- そうですね。あの頃はたくさんのことを学びました。まさか、こんな風に対談する日が来るとは予想していなかったけれど(笑)、改めて話ができてよかったです。今日は本当にありがとうございました。
GUEST PROFILE
石原 直子
人材マネジメント雑誌「Works」編集長。慶應義塾大学卒業後、都市銀行、コンサルティング会社を経て2001年7月にリクルートワークス研究所勤務となる。これまでに人材ポートフォリオ、ダイバーシティ、リーダーの研究などに取り組んできた。 2003年から2007年までリクルート人事部を兼任し、理論と実践の融合に取り組んだ。 近年ではタレントマネジメントの視点から、女性管理職、事業創造人材、高度外国人材などの研究をおこなっている。研究領域:人材マネジメント領域の中でも、特にタレント・マネジメントを専門とする。企業におけるコア人材、次世代リーダーとなる人々を、日本企業がどのように獲得し、活用すればよいのかを解明したいと考えている。
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