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有償モバイルPOSレジで国内トップクラスのシェアを誇るポスタス株式会社。従業員数が急増するなか、組織規模に見合う組織開発や人材育成の必要性が高まり、2023~24年、管理職を対象とした「リアルマネジメントプログラム」を実施しました。その内容は、一般的によく行われるインプット型の研修とはひと味違う、同社のマネジメントの“リアル”を追求したものです。企業拡大期における管理職研修の意義やプログラムの工夫、その実施効果などについて、同研修を主導した執行役員の村上東洋氏と人材・組織開発グループマネジャーの高松佑夏子氏に伺いました。
ポスタス株式会社は、2013年にサービス開始したクラウド型モバイルPOSレジ「POS+(ポスタス)」の事業をパーソルプロセス&テクノロジー株式会社より承継する形で、2019年に設立された、パーソルグループの会社です。キャッシュレス決済が急速に普及するなか、飲食店や小売店、美容サロンなどの多様な業態の店舗に合わせた「POS+」を提供し、事業は堅調な成長を続けています。それに伴い、組織の規模も大きくなり、組織開発や人材育成の重要性が高まったと村上氏は語ります。
「管理職には『事業・顧客創造』『組織運営』『メンバー育成』の3つの役割があると言われますが、会社設立からしばらくは事業・顧客創造に重点が置かれ、組織運営とメンバー育成に対する意識は比較的薄かったと思います。しかし、組織が大きくなった今、組織と人の課題が事業成長を阻害する可能性が出てきました。会社として組織運営と人材育成の重要度を高めるタイミングだと感じていました」(村上氏)
村上 東洋氏
2023年4月、組織運営や人材育成に特化した組織開発グループが発足。その取り組みの一つとして、新たに管理職研修を企画、実施することになりました。同グループの初代マネジャーとなった高松氏は、こう振り返ります。
「従来からマネジャー登用時にはパーソルグループ共通のインプット型の研修は実施していますが、その後は現場の上長任せとなっていました。タスクやプロジェクトのマネジメント力は磨かれても、人のマネジメントについては十分に学ぶ機会がなく、「人材育成がマネジャーの役割責任である」という認識が高まらなかったと感じています。この研修では、既にある人事制度や目標管理の仕組みを通じて、管理職としての実践力を底上げすること、また、マネジャー同士の関係構築を狙って設計しました」(高松氏)
高松 佑夏子氏
独自の管理職向け研修の実施は同社にとって初の試みであったため、外部のパートナーと連携して企画・実施することになりました。3社によるコンペを実施し、選んだのはブリコルールでした。
「ブリコルールさんの提案を聞いたとき、『そうそう、求めているのはこういうの!』と。研修のセオリーをしっかり踏まえつつ、我々の事業に即した実践的なプログラムになっており、実践するイメージが湧きました」(村上氏)
ブリコルールは4年前、同社の行動指針を策定するプロジェクトに携わった実績がありますが、今回の選定は、単に人間関係によるものではないようです。
「ブリコルールさんとは既に関係性があるからこそ、こちらとしては先入観なくフラットに比較検討しようと心掛けたつもりです。それでもやはり、当社の雰囲気や思考の癖を理解し、課題感を的確に汲み取ってくださった点は突出していました。またブリコルールさんが大切にしている『あるものを活かす』という考え方と、私たちが今回実現したかった『ポスタスの実際の人事制度やMBO(目標管理)シートを活かしながら管理職の実践力の底上げや管理職同士の関係構築を図りたい』という思いが、ぴったりと合致したことも大きいですね」(高松氏)
ブリコルールの提案が基となった管理職向け研修は「リアルマネジメントプログラム」と名づけられ、2023年秋から約1年間にわたり、「対話と実践」に重点を置いた全5回のセッションが順次実施されていきました。
「実施したかったことの方向性は名称にも表れています。『リアル』には、教科書的なお勉強ではなく、ポスタスの現状に即した実践に重きを置いた内容にしたいという思いを込めました。また、『研修』ではなく『プログラム』としたのは、『研修を受講する』という受け身の姿勢ではなく、主体的な対話と実践を引き出したかったからです」(高松氏)
セッション1は「役割意識の醸成」をテーマとし、アシスタントマネジャー以上の約40人を対象に2日間の合宿形式で実施しました。1日目のメインの活動は、部署別にチームとなり自部署の役割と課題についてディスカッションし、言語化するというものです。チーム内の活動に留まらず他部署への期待や貢献したいことの交換も行うことで、自部署についての思考を一層深めるとともに、部署間の相互理解を図りました。2日目は役職別チームで各役職のマネジメントの役割について考えていきました。
自分がしっくりくる立ち位置を見つけるスタンディングアンケートや、ピクチャーカードを使った相互インタビュー、レゴ®ブロックを使った表現など、五感に働きかける多彩なワークが随所に組み込まれ、参加者は新鮮な体験として楽しんでいる様子だったと言います。
「一般的な講義形式の研修と異なり、体を動かしたり、何かを創ったり…という“普通と違う”内容も取り入れられ、『研修』というと身構える人が多いなか参加しやすい雰囲気が作られたと感じました。以降のセッションに対する心理的なハードルも下がり、初回のアプローチとしては非常に良かったのではないでしょうか」(村上氏)
参加者の事後アンケートからは、「開発に一番求められているのは品質だと実感した」「他部門から自部門がどのように見られているかを理解することができ、新たな視点をもてた」「他部署と連携し、ポスタス全体として課題を解決しなければと理解したので、今後に活かしたい」など、様々な気づきがあったことがうかがえます。また、「自分のポリシーを押し付けるのではなくメンバーのありたい姿を一緒に見つけ尊重してあげたいと改めて思った」「1プレイヤーでなく、一緒に働くメンバーの成長も考えながら行動したい」など、マネジャーとしての意識を改めたという声も目立ちます。
「他部署の人と、組織について話すこと自体、これまであまり機会がなかったので大変喜ばれました。また、『それぞれのコンテンツで時間が足りなかった』という感想も多く、部署や役職を超えてもっと話したい、もっとつながりたい、という思いが伝わってきました」(高松氏)
ピクチャーカードやレゴ®ブロックを使ってセッションを実施
セッション2~4は、マネジメントの重要な業務である「目標設定」「課題設定」「評価」をテーマに設定。マネジャー以上の約20名を対象に、タイミングも実際のサイクルに準じて実施しました。
人事制度では、評価が重視されがちですが、適切に評価を行うためには目標設定の目線合わせが不可欠です。セッション2は「目標設定のコツ」をテーマとしました。まず、人事制度ハンドブックを元に作成した人事制度理解度テストを実施。
「テストの点数が思ったより低く、こちらが思っているほど理解されていないものなのだと驚きました。人事担当としても、『人事制度ハンドブックを読んでおいてください』と言うだけでなく、運用の工夫が必要なのだと気づかされました」(高松氏)
人事制度の内容に込めた経営からのメッセージや運用ルールを確認したうえで、実際に設定したメンバーの目標を持ち寄って、何をどう描くか、について目線合わせを行いました。
セッション3は「組織/自分の問題発見」がテーマです。直近の自部署のサーベイ結果を分析し、さらに現状の問題について掘り下げていくという内容です。問題を深掘りするための手法には、質問を中心にした対話によって問題の特定や解決策を導き出す「質問会議」を用いました。
「総じて質問会議の反応が良かったですね。『自分の気持ちが問題の真因だった』と気づいたり、『困っていることを吐露でき、みんなが真剣に考えてくれたことがとても嬉しかった』と前向きになったり、それぞれに得るものがあったようです。質問会議を自部署でも取り入れたいという声もあがっていました」(高松氏)
セッション4「評価に向けて」は、評価時期の直前に実施しました。各グレードに求める要件について、職種別にグループを組んで、具体的な行動レベルで言語化に取り組みました。事後アンケートでは『業務に役立つ内容だった』が92%にのぼりました。
「今の人事制度では、グレード要件は全職種共通で書かれていて、評価時の職種を超えた目線合わせが難しくなっている感覚もありました。組織も大きくなり、職種ごとに果たすべき役割も明確になっている中で、そろそろ言語化する必要を感じていたところでした。このような対話の積み重ねが人事制度の運用能力の向上につながることを実感しました」(村上氏)
「今まであいまいだった職種別の各グレードに求める要件について目線合わせができました。今後の精査の必要性について言及するコメントもあり、マネジャーに課題意識が生まれたことも今後につながる良い兆しだと思います」(高松氏)
最後のプログラムであるセッション5は、今後、組織運営する上で大事にしたい考え方について「対話の始まり」という位置づけです。上位マネジャーが集合し、結論を出すことを直地点としない自由度の高い対話を行いました。これを機に、今後もこのような「終わりなき対話」を続けていくと言います。
「結論を出すことをゴールにすると、どうしても議論はロジカルな方向に収束していきます。あえてそうしないことによって、実現可能性や合理性にとらわれない幅広い意見が出てきました。日常業務のなかではあまり聞く機会のない、それぞれの考え方や心情が垣間見えたのが良かったですね」(村上氏)
リアルマネジメントプログラムを終え、現在感じている手応えについて、両氏はこう語ります。
「このようなプログラムを通して、会社として組織開発や人材育成を重視している姿勢を明確に示すことができたのは、一つの成果だと思います。それによって、管理職の一人ひとりが組織や人の課題を自分ごととし、しっかり取り組んでいこうという意識に変わってきたと感じています。また、私にとっては、マネジャー層の現状に対する解像度が上がり、人事制度の課題が一層鮮明になったことも大きな収穫です」(村上氏)
「現場からは、これまでさらっと行っていたマネジメント業務に意識的に取り組むようになったという声が聞かれます。さらに、『メンバーにどうフィードバックすれば成長につながるだろうか』『どういう目標設定にしておくと良いのか』などの対話が生まれており、今後に向けた大きな一歩になったと思います」(高松氏)
今後は、この「リアルマネジメントプログラム」をベースに管理職に向けた研修を内製で実施していきます。
「これからも組織運営や人材育成に力を入れていく方針です。リアルマネジメントのエッセンスを取り入れた管理職向けの研修を継続して実施し、管理職同士が縦横無尽につながる関係性をつくり、組織知と個人知が行き交う会社にしていきたいと考えています」(村上氏)
数年ぶりにお会いした高松マネジャーは、変わらず「ポスタスを良くしたい」「組織を良くする活動をやっていきたい」と強い意志をお持ちでした。そして、初めてお会いした村上EMは「そろそろ組織や人に投資をしないといけないタイミングだ」「チャーミングに建設的な議論を展開したい」と現状を見極めていらっしゃいました。お二人の思いや覚悟のようなものを感じながら、各5回を共に企画・実施していきました。
回を重ねるごとに明らかになる課題について村上さん、高松さんと“チャーミングに建設的に”討議し、丁寧に企画を進めていきました。まさにブリコルールなこのプロセスにおいて、「うちへの愛を感じた」と仰っていただけたことはとてもうれしいことです。
マネジャーたちが学びをいかして人事制度を生きたものとし、組織や人の力が事業への促進力となることを願っております。
DAY1からDAY5に至るまで、終始お二人の思考や意思が強く感じられた時間でした。そのこと自体が、今回のプログラム成功の大きなポイントであったと思っています。また、お決まりの「研修」ではなく、リアルに則したものであり、且つ、都度その内容をアジャストしながら(アジャストというレベルではないかもしれませんが(笑))進めることができましたのも、お二人の柔軟な考え方と、受け入れて下さるスタンスによるものが大きかったと思います。そのような意味でも、お二人とプログラムを進められて、私自身も大変貴重な体験をさせて頂きましたし、有難いお時間となりました。本当に有難うございました。今後の更なる発展を心から願っております。