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大手企業で働く魅力は、長期視点で社会的価値の高い仕事に携われること。その一方で業務がサイロ化しやすく、閉塞感を感じる人も少なくありません。NECグループ 日本電気通信システム株式会社(NEC通信システム)の第三テレコムソリューション事業部 第一開発グループ(一開)では、未来に向けて取り巻く環境が大きく変わる中で、継続安定的な事業に携わりながらも自らを変革し、「仕事を誇れる組織」を目指してプロジェクトを実施してきました。企画・支援を行ったブリコルールの野元、小野寺が、部門を牽引する大串氏、プロジェクトメンバーの新沼氏、町田氏、古川氏に、取り組みの苦労や成果、今後の展望についてうかがいました。
NECグループの一員として、高度な通信技術をベースに、テレコム・モビリティ・セキュリティ・産業DXといった様々な領域で社会に貢献しているNEC通信システム。第三テレコムソリューション事業部では、国内のテレコムキャリア向けに、通信インフラ基幹部のソフトウェア開発業務を中心とする提案から開発、保守維持管理までを幅広く担っています。
高品質を維持し続けることが当然とされる業務に取り組む中で、「急速な技術変化やネットワークインフラのレベルが変わっていくことを感じてはいても、社員が未来に向き合うことに意欲的とは決して言い難かった」と大串氏は評します。
「3年前は三鷹が中心で、NEC通信システムの活動拠点とは距離的に離れていたこともあり、どこかガラパゴス的な疎外感がありました。組織内の雰囲気もあまり良いとはいえず、私もベースにある悩みや課題が把握できずに悩んでいたんです。そんな時に実施されたエンゲージメントサーベイによって、一人ひとりの不満が数値化され、改めて危機感を持つようになりました。それがプロジェクトを立ち上げる直接的なきっかけとなりました」
大串昌広氏
とはいえ、大きな会社におけるサーベイの結果分析については、質問項目自体の定義の曖昧さや、つける社員側の立場や状況で観点が変わるなど、掴み所のなさに戸惑いがあったといいます。そこで人事総務本部からの提言もあり、サーベイの分析やプロジェクトの進め方などをブリコルールが支援することになりました。
「全社員が参加するプロジェクトにしたいと考えており、そのためにも、まずはマネージャーの力が必要でした。マネージャーとは問題意識を共有できていると思っていましたが、実際のヒアリングで、彼らとも乖離や齟齬があることがわかったんです。意見には辛口なものが多く、ダメージを受けてしばらく立ち直れなかったですね(笑)。ブリコルールさんに『まずは大串さんがマネージャーと目線を揃える必要がある』と指摘され、丁寧に対話を重ねることを覚悟しました」(大串さん)
プロジェクトでは、まず部門のビジョンや問題の共有を目的として、大串氏によるプレゼンテーションからスタートしました。「自分たちの強みを活かし、時代に合わせて自ら刷新する」という方向性に対し、賛同は得られたものの、マネージャーからは厳しい意見が続出。「これ以上どうがんばれというのか」「トップダウンで方向性を決めてほしい」という声もあったといいます。
マネージャーとして参加した町田氏は、「以前の資料を見返すと、大串さんへの"おんぶにだっこ感”が明らかでしたね。様々な問題をどう解決したらいいのか、戸惑いと同時にトップへの甘えもあったのでしょう」と振り返ります。古川氏も、「信頼関係があるからとはいえ、『そこまでいうの?』と驚きました。でも、遠慮や忖度なく、徹底的に様々な声を出し切り、聞き合い切ったからこそ、やがて『幾つかのことは自分たちレベルでも解決できるのでは?』と客観的に考えられるようになったのかもしれません」と語ります。
古川範江氏
大串氏は「これまで、それぞれの意見や気持ちを表現する場がありませんでした。実際に場を作ると、少しずつ内に秘めていた思いが吐き出され、他の人の意見に気づきを得たり、自分たちが願う未来に腹落ちしたり…、と新しい変化の兆しが見えてきました。忙しさであきらめず、強制的にでも話し合う場をつくる必要性を感じました」と評します。
しかし、「言いっ放し」ではなく、それぞれの思いを実現していくには、取り組みの目標や行動計画を定める必要があります。問題意識の共有に留まらず、共有された部門のビジョンを展開し、マネージャーが「自分のチームはどうしていきたいのか?」を考え、チームビジョンを表現するセッションを企画しました。
続くマネージャーセッションでは、各チームごとの問題を共有し、それぞれが担っていきたい役割やビジョンの発表を行いました。多忙を極める中で、時間を捻出するのは大変でしたが、「いつかはやらなくてはならない」という認識のもと、複数回にわたって実施。町田氏は「6〜7年前に他部門から異動してきた自分の持つ異なる視点も役に立つのではないか」という思いで参画し、古川氏も「またとないチャンス」と期待を膨らませたといいます。
「現状に対する問題意識は以前からあり、今なんとかしなければ10年後には取り返しがつかなくなるという危機感がありました。でも、自分でできる範囲には限界がある。だから、全チームが共に取り組む機会を得て、これは絶対に成功させたい!と思いました」(古川氏)
昇格し、新マネージャーとなった新沼氏が合流し、プロジェクトリーダー間でも様々な議論や意見交換がなされました。その中で部門及びチームに共通する核となるものを、改めて「ビジョン」として統合して共有。新沼氏が「モダナイゼーション」というキーワードを提案し、この取り組みは「モダナイゼーションプロジェクト」と名付けられました。
「以前からこの取り組みの”気配”は感じていましたが、マネージャーになって初めて、メンバーには届いていない情報がかなりあったことを知りました。壁の向こうではマネージャーたちの声が共有され、想像以上に真剣に問題解決のために取り組んでいる。その熱意を共有して、この先は社員全員で取り組むべきだと感じました。正直、先輩たちが変えられなかったことを自分たちで変えられるか、不安もありました。でも、他部門での成功事例も聞いていたので、自分たちもトライしてみたいと思ったのです」(新沼氏)
新沼勇太氏
マネージャーが自ら率先して全社員に向けた取り組みを進めるのを見て、大串氏は「嬉しくて、感動した」と語ります。「かつては自分ひとりがなんとかしようと足掻くばかりでしたが、ブリコルールさんに指摘された『仲間を増やすこと』の大切さを再認識しました」
マネージャーセッションに次の層である主任クラスも交え、サーベイの情報を活かしながら、自分たちの強みや問題を読み解き、「1枚のループ図」に表しました。「ループ図」とは、サーベイの数値から問題やそれに影響を与える(受ける)要素を列挙し、因果関係を矢印で結ぶことで要素感の相互作用構造を図式化するというものです。
ループ図で、部門や各チームの強みや問題の因果関係を把握しながら、社会情勢や会社の構造など「すぐには手を付けられない領域」と、自分たちで「解決できそうな領域」を整理します。ブリコルールからのたくさんの問いかけに応えていく数回のセッションで、これまでは漠然としていた強みや問題の深層とその因果関係が明らかになり、取り組むべき事項の優先順位も見えてきました。
「皆マネジメントをするという似た立場ながら、普段は別々の業務をしているため、他のマネージャーの特徴が見えにくいのです。それが、同じ作業を並んでやることで、人との違いがより具体的に見え、刺激になりました」(新沼氏)というように、マネージャーのモチベーションやスキルの向上にも貢献したといいます。そして、何よりも大きく変わったのは、マネージャー自身の“マインド”でした。
「まだ問題が解決したわけではありませんが、明らかに皆の表情が明るくなっていきました。『どうすることもできないこと』もあるけれど、それ以上に『自分たちで解決できること』があると認識するだけで、意識は大きく変わるんですね。“自分たちの問題”にフォーカスすることで、建設的な発言や行動にもつながったように思います」(町田氏)
町田宏彰氏
この「ループ図」を携えて各拠点に赴き、全メンバーがマネージャーの仮説に対して意見を出し合いながら、最後には各チームのビジョン目標設定、施策策定の発表を実施。大串氏が望んでいた全メンバー参加の「モダナイゼーションプロジェクト」が本格的に始動することになりました。
当初から“全員参加”にこだわってきた大串氏は、「絶妙なタイミングだった」と評します。「現場の一人ひとりから気持ちが上がらなければ、組織としてパワーが出ないし、モダナイゼーションなんて無理だと考えていました。なんとか巻き込みたいという思いだけが先行していましたが、きっと、ただ巻き込んでも混乱するばかりだったでしょう。マネージャー層が対話による相互理解を経てループ図などを通じて自身の指針や方向性を共有し、メンバーに落とし込んでいく様子をみて、これでやっと建設的な議論ができるのではないかと期待がありました」
一方、古川氏は「まだ難しいかもしれない」という見通しを立てていたといいます。「どんな取り組みも、大多数に浸透させるのは本当に大変です。でも、だからといってやらない手はないですしね。期待はしてもしすぎないよう、『1人でも仲間が増えれば成功』と楽観的に考えるようにしました。そもそもブリコルールさんとのセッションは学びが多く、サーベイの捉え方や、理念から施策へのつなげ方など“目からウロコ”の連続だったので、楽しみながら挑戦する気持ちでいました」
この取り組みに並行して、自主的に立ち上がった拠点間セッションでは、拠点を越えてメンバー同士が良好な関係を構築することを目指しました。心理的安全性が担保され、安心できる関係があるからこそ、強みや問題を共有してチャレンジができるチームができると考えたのです。この取り組みではマネージャーと主任・メンバー数人が4〜5人チームとなって、1ヶ月に1回のペースでテーマごとに懇談を実施していきました。
これらの取り組みにおいても、「他人事のように批評する人や自説にこだわる人が多くてまとまらないかも」(新沼氏)、「言いたい放題で収集がつかなくなり、空中分解するのではないか」(古川氏)と懸念があったといいます。実際、スタート時の議論は順調ではありませんでしたが、徐々に具体的な目標や施策へとまとまっていきました。そして、その頃には、厳しい指摘をしていた人たちがむしろ取り組みをサポートする側にまわるようになったといいます。
「想像以上に積極的に関わろうとするメンバーが多く、その人数が回を追うごとに増えていきました。それも、活動から距離を置くだろうと思われていた人ほど自発的に発言し、内側に秘めていた情熱を表す局面が見られたのが印象的でした」(新沼氏)
この次に取り組んだのが、マネージャー全員参加による「メンバーの評価基準の整備」でした。掲げた部門ビジョンを体現するために、「あるべき姿」をチームと個人について議論して定め、それを具体的な行動レベルに落とし込んだ上で評価・育成計画に紐づけていくことが目的です。
「いろんな意見があるので『基準に合意を得る』のは、とても難しく、当初は戸惑いました。でも、プロジェクトとしてこの問題は今年度中には決着させたい!と思って、思い切って私から結論を仮置きしてみたんです。するとそれに対する意見が重ねられ、微調整だけで皆が納得できる形に決めることができました。完全なものを出そうとして考えすぎるより、仮置きでも可視化して出してみて、そこから調整していくほうがいいのかなと。それが私にとってはブレークスルーになりましたね」(古川氏)。
評価基準の具体化は、人事や経営メンバーが決定し、現場はそれを受け止め解釈して活用するという進め方が多く見られます。今回のマネジャーが議論を尽くして結論を出していこう、という営みは、手間と時間がかかるものの、実際に評価する側/評価される側それぞれの納得感の醸成に有効だったといいます。
この取り組みを、拠点をまたいで全マネージャーが一緒になって進めることで、「各拠点の情報が共有され、行動と評価の紐づけにあたっても他拠点での具体例を引用して説明できるようになりました」と新沼氏が語るように、部門で共有する「望ましい行動原則」の具体例の蓄積にもなっています。
数年にわたるプロジェクトの一つの区切りとして、各チームの「ありたい姿」を全メンバーで議論する機会を設けました。レゴ®シリアスプレイ®という技法を用いて自分たちの拠点やチームで実現したいことを表現し、互いにプレゼンテーションするセッションを実施しました。
「あれは誰もが『楽しかった』と言っていましたね。通常、社内の研修といえば座学がメインで堅苦しいものが多い。会食などで親睦を深めるのもいいのですが、それだと肝心なことが共有できていなかったりする。だから、楽しくて、かつ議論や意見交換ができる方法を提案いただいたのは助かりました。もっと現場を巻き込んでいくためには『楽しさ』や『わかりやすさ』が重要だと感じました」(新沼氏)
「私達だけでやろうとしても、なかなかうまく進まなかったと思います。ブリコルールさんに客観的な見立てや専門的な知識・技術を提供いただき、要となって進行してもらったおかげで前向きに進められるようになりました」(古川氏)、「いろんな会社に関わっているブリコルールさんだからこそ、私達に合った形で進めていただけたのだと感じました」(町田氏)と、専門家が第三者として関わることの価値についても評価いただきました。
約3年間にわたるプロジェクトは現在も進行中であり、その間に各拠点・チームの雰囲気も改善され、多くの人がその変化を肌で感じているといいます。
「一番変わったのは、『大きな組織で何も変えられない』という閉塞感が払拭されたことでしょう。大企業にあっても個人やチームで変えられること、改善できることは必ずあり、自分たちでも働きやすさややりがいを高めていける。マネージャーが中心となって、その気付きを得られたことは大きいと思っています。ただ、まだ変化がサーベイ数値の大幅な向上には現れていません。サーベイスコアはあくまで指標ではありますが、結果の一喜一憂に留まらないで、その要因について引き続き考察しているところです」(大串氏)
町田氏は、「参加したメンバーは、明らかに自律的な行動を重要と理解し始め、コミュニケーションの取り方なども変わってきています。これまで私が主導して進めることも多かったのですが、今は主体的に動いて自走できるようになってきました。その意味で、サーベイに反映されていくのもあと一押しだと思います」と語り、新沼氏も、「マネージャーのエンゲージメントの高さはコミュニケーションの密度に比例して上がってきています。これからはメンバーが主体的に発言・行動できるような機会を提供していくことが必要」と強調します。
他にも、「組織変革の理由や背景の十分な説明を行うべきではないか」「楽しそうにやりがいを持って取り組む人の事例を見せていくといいのではないか」など、今後についての様々な仮説やアイデアがインタビュー中にも続々と出てきました。
そんなマネージャーの皆さんをみて、大串氏は「忙しい中でも自主的に動いていて、チームやメンバーを引っ張ってくれることに頼もしさを感じています。ただ、個人でできることには限界があるので、ぜひ仲間を増やして皆を巻き込んでいってほしいですね」と語ります。
チームでも個人でも、主体的に動くことで変えられることがある。その確信の下、NEC通信システム第三テレコムソリューション事業部 一開のモダナイゼーションは全体化に向けてスタートを切ったばかりとも言えます。大きな組織内の小さな変革が、どのように変化を起こし、組織に影響を与えていくのか、今後の成果が期待されます。
プロジェクトメンバーの皆様方と。右は人事総務本部の小松育恵氏。
一開は当社のコアとなるテレコム領域を支える重要な部門であり、皆さんがとても忙しいことは知っていたので、「はたして組織開発に時間を割けるのか?」と、実は心配していました。部門長である大串さんの熱意を、マネージャーの皆さんが受け止めてプロジェクトという形で進行できたのは、ブリコルールさんのアシストがあったからだと思います。
約3年間という連続したプロジェクトを社外の方に伴走いただくのは初めてで、そばで見ていて、皆さんの意識がどんどん変わっていくのがはっきりとわかりました。そして、変化の様子を見ながら、セッション内容を柔軟に組み上げていく、ブリコルールさんの手法にも驚かされました。
サーベイはひとつの指針に過ぎないとは分かっていても、なにか施策をしたときは数値に変化がないと不安になります。でも、ここまで変化を実感できると、部門にとって最も大事なものは何か、人事総務としてどう貢献すべきかと考え、本質的な役割を意識することができました。開発部門とスタッフの枠を超えた関係性も構築できたように思います。
プロジェクトを通じて改めて実感したのは、組織開発はメンバーが主体的に自らの組織のことを考えて行動し、継続することが重要だということです。そして、そうした人やチームを増やしていくことが、我々のミッションだと考えています。これまでは個別のアプローチに頼りがちだったので、サーベイなどの分析にはじまり、施策を考えて実施し、再び結果のフィードバックを行うという、自律的な組織改革の仕組みづくりをしていきたいです。
プロジェクト初期のアシミレーションでは、マネジャーからネガティブなレスポンスがありました。この反応は「変革エネルギーの現れ」です。自分に対する期待を「トップに投影している」とも言えます。単に"関係が良くない"と決めつけず、変革の火種の存在を見立てて、適切な施策に仕立て続けることが肝要です。引き続き、サーベイスコアは施策の点検に活用して欲しいと思います。
※アシミレーション
トップからのプレゼンテーションに対するミドルからレスポンスを元に、さらに対話を重ねる相互理解から結束に向かう手法。「融和」「融合」の意味。
みなさんとは3年のお付き合いになります。お会いしたばかりの時は、組織長である大串さんが孤軍奮闘されていらっしゃいました。組織は一気には変わりません。とにかく仲間を増やしていきましょうと一つ一つの施策に共に取り組んできました。印象的なのは、メンバーがアサインされ、プロジェクトが立ち上がってから、大串さんが見守る役に徹されたことです。難しい局面で大串さんに伺えば、シャープで本質的なご意見をさっと仰っていただけました。すぐには変化が見えにくい中で、そんなご自身の思いを内側に持ちながら任せきることは簡単なことではないと感じていた次第です。 3名のプロジェクトメンバーが自走され、周囲にもその影響力が伝播していくプロセスをご一緒し、私たちの仕事はこの「私たちがいらなくなっていく」感覚が一つのゴールだなとかみしめていました。今後も多くの方を巻き込んで継続されることを楽しみにしています。