写真左から4人目、3人目
ほか左より
大阪・東京に拠点をもち、不動産ソリューション・賃貸・仲介等の事業を展開する株式会社LeTech。2023年の社長交代後を“新たな創業期”と位置づけ、最初に取り組んだのは企業理念の刷新です。全社を挙げてL_Visionプロジェクトに取り組み、ブリコルールの伴走の下、2024年に新しいMission・Vision・Valuesを完成させました。プロジェクトの意図や取り組み方、それによる現場の変化について、宮地直紀社長と藤原寛副社長、そしてプロジェクトリーダーを務めた管理職5人にお話を伺いました。
株式会社LeTechは、2000年、金融機関・士業向け不動産仲介コンサルティング事業を柱とし、リーガル不動産という社名を掲げて現会長の平野哲司氏が大阪で創業した会社です。東京に支社を開設し、任意売却事業のほか不動産の開発、賃貸、分譲、リフォーム、不動産テックなど多角的な事業を展開してきました。2021年、環境変化に合わせて新たな領域を切り拓いていこうと、社名をLeTechに変更。2023年10月、外部から招聘した宮地直紀氏が社長に就任し、“新たな創業期”が幕を開けました。
就任後、宮地社長がまず取り組んだのは、企業理念(Mission・Vision・Values)の刷新でした。宮地社長はこう振り返ります。
「混乱期を経た初の社長交代という重要な節目において、社員を一つに結束させることが最優先課題だと考えました。そこで着目したのが、経営の土台となる企業理念です。プロ経営者として、戦略や戦術の刷新を行う必要は当然に感じていましたが、それらの土台となる私たちは何者で、なぜこの社会に存在しているのか、大切な価値観は何か、そのあたりを今一度みんなで考える必要があると思ったのです」
宮地社長
宮地社長の提案に、創業者である会長も賛同しました。約10年間経営の一翼を担ってきた藤原寛副社長にとっても、納得感があったと言います。
「ここ数年は苦しい時期もあり、会社が変わらないといけないという意識は強くありました。企業理念を刷新することで、最も会社が変わったことを社内外に示せるのではないかと期待しました」
藤原副社長
目指したのは、上層部で決めたことを現場に下ろすのではなく、全員参加型のボトムアップで決めていくプロセスです。社名の頭文字から名づけたL_Visionプロジェクトを立ち上げ、大阪と東京の拠点を融合して全社で対話しながら進めていくことになりました。
「各拠点内に収まることなく人がクロスすることは、単に人間関係が良くなるだけでなく、組織の集合知を高め業績にもつながるという合理性もあります。拠点間の移動にコストと時間をかけてでも、一緒に取り組む必要があると考えました」(宮地社長)
十分な時間がない中での、拠点をまたいだメンバープロジェクト。そして、その過程でメンバー以外の社員も可能な限り巻き込むというチャレンジングなプロジェクトの伴走役には、ブリコルールが指名されました。
「数年前、私が別の会社に在籍していた時、部長対象ワークショップのファシリテーションをブリコルールさんに依頼したことがあったのです。対象者に対する観察が鋭く、意見を引き出すうまさは随一だと思い、今回もブリコルールさんにお願いしました」(宮地社長)
L_Visionプロジェクトは、ゼロベースで理念を構築し、その理念の全社への共有・浸透を図るという2段階で進められました。その中心的な役割を担ったのは、経営陣から指名された多様な部署の10人による「プロジェクトリーダーズ」(以下リーダーズ)です。リーダーズのメンバーに話を伺うと、プロジェクト当初は「企業理念を変える必要がわからない」「なぜ経営層ではない自分たちがやらなくてはいけないのか?」「他の業務で忙しくてやりきれない」など戸惑いもあったという声があがりました。
そんな状況からスタートし、定期的に集まってセッションを実施。「自分たちらしさ」について歴史・哲学・資産という切り口でディスカッションしたり、レゴ®シリアスプレイ®という手法を用いて「ありたい姿」や「実現したいこと」をレゴ®ブロックで表現してみたり…、自社の過去・現在・未来と向き合い一歩ずつ理念づくりを進めるうちに、リーダーズの意識に変化が見られるようになりました。営業管理室長・加藤真理子氏はこう振り返ります。
「最初は『どうすればみんなが腹落ちする理念になるのか?』と焦りがありました。それでも『やるしかない』と覚悟を決めて取り組むうちに、少しずつ目指す方向性が見えてきて、活動の意味も理解するようになっていきました」
加藤氏
西日本営業部長・池田維彦氏は、事前に推薦された理念経営に関する書籍を熱心に読み込み、付箋でいっぱいになった書籍を携えてセッションに臨みました。
「これまで興味がなかった分野の本でしたが、メモを取りながら時間をかけて読んでいったら、『意外と面白いな』と。経営のセオリーとして、企業理念で会社のベクトルを合わせる重要性がわかりましたし、その後のプロジェクトでそれを実感していきました」
池田氏
あまり交流のなかったメンバーと共にセッションを行ったことについては、「初めてしっかり意見交換して『意外と熱い』など人柄を知る機会になった」、「最初は移動の時間とコストをかけることに疑問も感じたが、結果的には相互理解が深まって非常に良かった」など、ポジティブな受け止めが目立ちます。
こうしてセッションを重ね、随所で経営陣とすり合わせながら、理念の骨子案を作成。それを基に全社員とのセッションも行い、新しいMission・Vison・Valuesの「L_Vision」が完成しました。
Missionは【「まだない」を見つけ、可能性の扉をひらく】としました。これは、未経験の事業にも挑戦することで成長を遂げてきた歴史を踏まえ、今後も前例のないことを見つけて挑戦し、取り組んでいくことを示しています。
Visionは【モノ・コト・トキをデザインし、コミュニティを幸せでみたす】です。これは、モノづくりだけでなく、そこで得られる体験を中心としたコトや、その時・その場所だから味わえるトキを創造し続ける姿勢を示しています。そして、活動を通じて様々なステークホルダーの幸せを追求していく覚悟を表現しました。
また、Valuesは【己動(こどう)・試行錯誤・進化・相互理解・誠実】の5つとしました。これまで培われた自分たちらしさや、これからの社員に求めたい価値観や行動を明確に言葉にしています。
これらの文言には、関わった皆さんの様々な思いが込められています。例えば、Valuesの「己動」は、設計課長の宮本亮氏が発案した「自ら気づき、がむしゃらにやりきる」ことを表す造語で、多くの社員の共感を得て決まったものです。
「私がこの会社の一番良いと思うところは、自分たちがつくったものについて『これ良いでしょう』『カッコいいでしょう』と胸を張って語られるところです。自らが主となり、がむしゃらにやりきったからこそ、このような言葉が出てくるのだと思います。ただ最近は日々の業務に追われてそれが少し減りつつあることを寂しく感じており、今一度当社の良さや強みをValuesの一つとして言語化することで今後も残すことができたらと考えました」
宮本氏
完成したL_Visionの共有のために、全社員を対象にワークショップを開催。一方的に内容を伝えるのではなく、部署や自身がVisionを実現した状態をレゴ®ブロックで表現したり、また、Valuesを実践する具体的な行動についてのアイデアをディスカッションしたり、様々な方法で理解を深めていきました。その場ではポジティブな反応ばかりではありませんでしたが、東日本営業部長の土井将司氏はこう捉えたと言います。
「自分自身もそうだったように、みんなも理念とはどういうものかに向き合い自分自身になじませる時間が必要でしょう。最初は無理に落とし込もうとせず、あえて見守る姿勢でいました」
土井氏
経営企画部長の小林晃氏は、次の段階に向けて決意を新たにしました。
「どんなに良い理念ができようと、社内に浸透させないと意味がありません。メンバーからも『これからが大事ですね』という声が多かったのが印象に残っています。そうした期待を裏切らないように経営企画として取り組んでいきたいと、気を引き締めました」
小林氏
共有ワークショップを終えてL_Visionプロジェクトは一区切りがつきましたが、その後もリーダーズの皆さんは各部署の状況や役割に応じて理念の浸透に努めています。
「L_Visionを風化させないためには全社で取り組む、浸透させるための仕組み化も必要です。例えば、現在人事部ではL_Visionを体現している人を推薦・表彰する制度をつくろうと動き出しています。どういった行動がL_Visionを体現しているのかを言語化するとともに、対象者への評価へも繋げていければと思います」(小林氏)
「メンバーがL_Visionを日常的に意識できるように、我々営業にとってどういう動きが想定できるかを独自に考えて資料を作成し、『これが正解というわけではないからみんなも考えてみて』と提示しました。それぞれの自分ごと化のきっかけにしてほしいと思います」(池田氏)
最近では社員同士の会話の中で頻繁にL_Visionの文言が引用されるなど、社内浸透は着実に進んでいます。リーダーズからは、「メンバーは個人目標を設定しやすくなったのではないか」、「Valuesに沿う行動はきちんと評価することを伝えると新しい仕事にも目をキラキラさせて取り組んでくれる」など、管理職としての仕事がしやすくなっている状況が語られます。
また、リーダーズ自身にとっても、プロジェクトを主導した経験は働く姿勢や会社に対する思いに大きな影響があったようです。
「当初はネガティブな気持ちもありましたが、実際にL_Visionが完成し、より働きやすい環境がつくれました。今となっては、我々に必要なプロジェクトだったと思えます。L_Visionを軸に自分たちの行動を振り返り改善していくというサイクルが回ることで、自分の成長も、部下の成長も促していきたいですね」(池田氏)
「私は慎重で腰が重いほうですが、今回のプロジェクトでは『やる』と心を決め、口数は少ないながら、もう必死に頭の中を回転させながら取り組みました。その経験によって、自分の本質は変わらないものの、少しずつオープンに意見や提案を出すことを意識するようになったと思います」(宮本氏)
「部署を横断して話し合うことで、これまで交流のなかった人の考えや姿勢に触れ、目の前の業務ばかりを見ていた自分の未熟さを思い知らされました。良い勉強になりました」(土井氏)
「勤務した10年間の激変を改めて振り返り、今の私たちに足りないものは何だろう?と考える良いきっかけになりました。会社全体を俯瞰しながら皆さんと意見を交わすなかで、ぼんやりしていた課題感の解像度が上がり、具体的な方向性も見えるようになったと思います」(加藤氏)
「自分が働く会社の仕事はカッコイイと思いたいし、会社の仲間を好きになりたい。今回のプロジェクトはその根幹となるものとして、責任感をもって取り組み、自分の思いを乗せることができました。今後も一層の誇りや愛着をもてる会社になるよう、理念の実現に力を尽くしていきます」(小林氏)
L_Visionプロジェクトをきっかけに変わり始めた現場に、経営陣も手応えを感じています。
「リーダーズとして活動したことで大きく成長し、発信力が高まっている者が少なくありません。彼らの変化が拠点や部門間の相互理解を促し、L_Visionという共通言語によって組織をまとめやすくなってきたと感じています」(藤原副社長)
ブリコルールによるプロジェクト伴走については、こう感想を語ります。
「上からものを言うのではなく、私たちに寄り添い、同じチームとなって伴走してくれました。関わったメンバーは率直に意見を出すことができ、非常にやりやすかったのではないでしょうか」(藤原副社長)
「プロセス重視の方針を理解し、腐心いただいたと感じています。コンサルティングの型にはめるのではなく、当社の内部にあるものをうまく引き出し、そこから理念を導き出すところは、やはりブリコルールさんにお願いして良かったと思いますね」(宮地社長)
現在、全社員が本社に集う会議では拠点を超えて会話が弾み、レクリエーションイベントは大阪と東京の拠点で同時開催して互いの存在を意識しながら楽しむ…数カ月前はなかった光景が業務の内外で見られるようになりました。
「最近、私の知らないところでいろんなアイデアが提案され、大阪と東京が協働しながら新しいプランに取り組もうとする動きもあります。会社として“ひとつ”になってきました。ここからがスタートです」(宮地社長)
2024年8月から新年度となり、事業の戦略・戦術を全社で考え立案する「L-Strategy」という新たなプロジェクトが始まりました。「ここに踏み込めるのは、L_Visionというしっかりした土台ができたからこそ」と宮地社長。今後についてはこう展望を語ります。
「来年度には創業25年を迎えますが、まだまだ成長段階にある会社として、チャレンジしていかなくてはなりません。社員が存分にチャレンジできるよう、『何もしないで減点なし』より、『手を尽くしてトライした結果マイナス』になったとしても、踏み出した一歩を私は評価したい。失敗は経験になり、次につながります。失敗を恐れずどんどんチャレンジするカルチャーを育んでいきます」(宮地社長)
L_Visionを軸に全社の結束力が高まり勢いづく同社。社員一人ひとりのチャレンジによる、さらなる飛躍が期待されています。
理念を再構築する、組織を変革する、という活動を経験できる方はそう多くないと思います。プロジェクトリーダーズのみなさんは、当初「はじめてだから…」と戸惑いを感じていらっしゃいましたが、これまで様々な難所を切り拓いてきた方々だけあって、あっという間にこのプロセスを自分たちのものにしていきました。最終的なアウトプット=ミッション・ビジョン・バリューズを全社にシェアリングした場でも、自分たちの手で実現する準備が整っているように感じられました。言葉は、生み出されたプロセスにこそ価値があり、意味が与えられていきます。これからこのミッション・ビジョン・バリューズがどんどん生きたものになり、実現に向かっていくことを楽しみにしています。
「正解探しではなく、決めたこと/定めたことを正解にして行くことが大切」
こんなフレーズを私はよくお客様にお伝えする。なんと無責任で軽い言葉であったかを反省するプロジェクトであった。「もっと納期に余裕があれば、・・・・」ということを実は何度も感じ、「もっとこだわれたところがあるのではないか?」と自問する瞬間も幾度もあった。どこかにあるかもしれない正解を探す自分である。
でもそんなこちらの不安をよそに、百戦錬磨のプロ経営者は軽やかに決断し、「『まだない』を見つけ可能性の扉をひらく」をDNAとして宿すプロジェクトメンバーがそれに呼応し、プロジェクトが、そしてその後のプロセスが自走して行く。学び多きプロジェクトに参画でき、感謝。