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JR九州グループの中核企業として、鉄道電気工事中心にさまざまな事業を展開するJR九州電気システム株式会社。2019年度よりブリコルールの伴走のもと、現場から組織を変えていくための「LET’s活動」に取り組んできました。活動3期目を迎えた今、強い思いをもって活動を推進してきた小林社長と、歴代LET’sメンバーの5名と共に、これまでの活動を振り返っていきます。
JR九州電気システム株式会社は1952年の創業以来、鉄道電気工事を主軸として発展し、北陸や北海道の新幹線建設にも携わってきました。現在、福岡の本社のほか九州全県に拠点をもち、建築設備工事や通信事業などの新しい分野にも事業を拡大しています。
そんな同社の最大の強みは、創業以来培ってきた高い技術力です。小林社長は「デジタル化が進む時代だからこそ、人にしかできないアナログの力に価値がある。これからも維持・向上させていきたい」と語ります。
その一方で、組織面には課題感も聞かれました。
「2018年にJR九州より着任し、各現場を視察して回った際、技術面については徹底して頑張っていこうという気概を感じました。しかし、『目の前の仕事さえやればいい』という雰囲気もあり、そこで意見交換会を開いてもなかなか新しい意見や要望が出てこない。また、支店(当時)間で情報交換をしている様子も感じられない。一人ひとりが会社を担うという『思い』や、従業員同士の『つながり』には物足りなさを感じたのです。現場から自発的に改善や変革の声が上がり、支店間が活発に情報交換しながら共に切磋琢磨していく…そんな組織に変えていかなければならない、と強く思いました」
折しも同社は翌年に創立30周年を迎えるタイミング。小林社長はこれを幅広い変革に取り組む好機と捉えました。
「30周年の節目を『ゴール』ではなく『スタート』として、様々な変革に取り組んでいきたいと考えたんです。その旗印として掲げた「NEXT KDS」という言葉には、『みんなで次に向かって会社を変えていこう』という思いを込めました」
その一環として始まったのが、組織開発のプロジェクト「LET’s活動」で、その立ち上げから3年間はブリコルールが伴走することとなりました。毎年、幅広い部署からメンバー約20人を募り、月1回程度のワークショップや主体的な課題解決行動に取り組んでいきます。そのなかで変革リーダーに成長したメンバーを起点として、各組織を動かし、会社全体の変革を巻き起こしていくことをねらいとしています。
「やはり大事なのは『人』です。人の思いやつながりを醸成していくことは、時間がかかるものです。すぐに成果が出るかどうかに気を取られていると、新しいことは何もできません。ここは社長の私が責任を負ってやるのだという強い覚悟をもち、継続的にやっていきたいと考えました」(小林社長)
こうして2019年4月、第一期LET’s活動がキックオフしました。第一期の大きなミッションは、同年12月に開催が予定されていた創立30周年記念イベントの企画・運営です。ブリコルールが提供する様々なワークショップを通して、自身のスキルアップや会社のあるべき姿を考えながら、30周年記念イベントの内容を検討していきます。
前例のないプロジェクトとあって、メンバーは初め期待と不安が入り混じる心境だったといいます。
「初日にメンバーが一人ずつ現在の心境を天気に例えたとき、メンバーからは『曇り』や『時々雨』といった発言が目立っていましたね。私はそこで『晴々』と言い、期待感の方が大きかったことを覚えています。それまで部署が異なると一緒に何かに取り組むことはまずなかったので、LET’s活動は新鮮で楽しみでした」(第一期メンバー・濵口氏)
他県から出張して参加するメンバーも多く、毎回の活動では次回までに各自で考えることや職場でトライしてみることなどの“宿題”が出され、通常業務も忙しいなかでの活動は決して楽ではなかったようです。それでも「何か変わるんじゃないか」「自分にも得るものあるのではないか」と参加を重ねるなか、次第にメンバーの意識が変化していきました。
「これまで自分なりの信念をもって仕事に取り組んできましたが、業務内容も地域も異なるさまざまな社員と話してみて、別の考え方ややり方もあるのだと気づきました。環境に合わせた幅広いアプローチへの理解が広がり、新しい自分を発見したように感じています」(濵口氏)
「これまで、会社の将来についてこんなに意見を言い合うなんて同期同士でもなく、ひとりで『会社が変わってくれないかな』と不満をくすぶらせるばかりでした。それが、LET’s活動でさまざまな部署や年齢のメンバーたちと会社の将来について議論を重ねていくうちに、『変えるのは自分たちなのだ』と考えるようになっていました。今は職場の若い人たちに『自分たちで変えていく意識で意見を言ってほしい』と伝えています」(第一期メンバー・白石氏)
30周年記念イベント開催までのプロセスについて、小林社長は「LET’sメンバーが自分たちで作ったと思えるものにしたい」とあえてチェックはせず、LET’sメンバーを信じて任せてきました。そうして迎えた30周年記念イベント当日。NEXT KDSに向けて必要と思う施策を、3つグループに分かれて堂々と経営に提言し、併せてメンバー一人一人が自らの熱い決意を表明しました。「よくここまでやってくれた」。小林社長は期待以上のものを感じたと言います。
しかし、当時、こうした活動やLET’sメンバーのプレゼンに対し、一部から「できるわけがない」「やらされ感がある」といった声も上がりました。
「『理想論じゃないか』と言われた時はちょっと頭にきて、思わず言い返しましたね。理想をもたなければ実現はできない。誰かが変えてくれるだろうと傍観するのではなく、自分たちに何が出来るかを考えろ、と。ただ最近思うのは、何もしないで文句を言うのは、おそらく裏側に『もっとこうしたい・こうなりたい』という考えがあるからだということ。それが意見として表に出てきて、もっと議論できるようになるといいなと思っています」(白石氏)
一方で、30周年記念のプレゼンに大きく心を動かされた社員も少なくありませんでした。翌年、第二期LET’sメンバーに手を挙げた内田氏も、そんな一人です。
「30周年記念イベントのプレゼンは衝撃的でした。部長や幹部クラスではない社員の皆さんが会社を変える提言を行い、自ら実行していこうとしているのを見て、自分にも変えていけるかもしれない、逆に変えていかないといけないのではないか、と思ったんです。また、従来は接点のない部署の人たちがチームとなって力を合わせ、とても楽しそうだったことも、第二期への参加動機のひとつとなりましたね」
2020年5月にスタートした第二期は、コロナ禍でほぼリモート開催となったものの、メンバーが得る気づきや学びは決して少なくありませんでした。所属部署の業務改善に一歩を踏み出すことにつながったメンバーもいます。例えば内田氏は活動のなかで「ファシリテーター」について学んだことから、所属部署の会議方法の見直しに取り組みました。
「ファシリテーターの役割を知り、グサっときたんです。これこそ自分に必要ではないかと。職場のコミュニケーション不足を感じていたので、早速テーブルミーティングの定期開催を始め、そのなかで自分は実りのある会議にするためのファシリテーションを努めるようになりました。実際に行うのは大変ですが、成長するよい機会になっていると思います」
また、第二期メンバーで現在LET’s活動の事務局を務める坪根氏は、部署間がつながるメリットを感じています。
「LET's活動を通じて『あの部署に〇〇に詳しい人がいる』とわかっただけでも、だいぶ部署間の相談がしやすくなっているのではないでしょうか。LET'sメンバーの提案で他部署との協力体制をつくろうという動きも出てくるなど、活動を機に部署間のパイプが少しずつ太くなってきていると感じています」
そして2021年度、LET’s活動も3年目に入りました。第三期メンバーには若手社員や勤続年数の少ない社員も増えています。
「私は昨年入社で、30周年記念イベントは見ていないので、LET's活動が何をしているのか正直よくわかっていなく、上司からの第三期参加の勧めを最初はスルーしていたんです。でもある時、第二期メンバーの方に30周年記念のプレゼンの動画を見せていただいて、『私もやってみたい!』と参加を決めました。私は人とのコミュニケーションに苦手意識があるので、これを機に変えていけたらと思って取り組んでいます」(第三期メンバー・齊藤氏)
齊藤氏ら第三期に対し、先輩メンバーたちはエールを送ります。
「周囲を巻き込みながら活動していくのは大変ですが、日頃と違った角度で仕事や職場を見て、懸命に悩み考えることに意味があると思います。すぐに確かな成長は感じられないかもしれませんが、少しでも気づきがあれば、必ずこの先の糧になると思いますから」(坪根氏)
「LET's活動では、自分の意見を発信することがチーム全体の力になることを実感できるはずです。各職場もそんなコミュニケーションが可能な環境になるよう、LET's活動からの広がりを期待しています」(内田氏)
「会社が成長していくためには、自分たちを含めて社員一人ひとりの意識は非常に大切です。LET's活動を通じて、それぞれが会社のあるべき姿を描き行動してく人が増えていってほしい。自分自身も皆さんに負けないように頑張るので、お互いに切磋琢磨していけたらいいですね」(白石氏)
先輩メンバーから思いのバトンを受け取り、齊藤氏は残りの活動に向けて気持ちを引き締めていました。
「第一期、第二期の皆さんのお話をうかがって、少しプレッシャーも感じているところですが、気負わず、明るく取り組んでいけたらと思います。今期もコロナ禍の影響でしばらくリモート実施が続きましたが、次回はリアルで集まれる予定です。会わなかった間にもきっと皆さんの中で何か変化が起こっていると思うので、次回はその変化を共有し、チームでの取り組みを深めていけるのではないかと楽しみにしています」
来年度からはブリコルールが徐々に支援の手を放し、活動の内製化を進めていく段階に入ります。今後のLET's活動を背負っていく事務局として、坪根氏はこう意気込みを語ります。
「多くの人にLET's活動に飛び込んで日頃と違う思考を巡らしてほしい。それには事務局から活動の魅力や成果をもっと発信していく必要がありますし、歴代メンバー間の縦のつながりの強化にも力を入れて推進していきたい。事務局としてやるべきこと、やりたいことが次々と浮かぶ毎日です」(坪根氏)
小林社長も、LET'sメンバーの成長や各職場での働きに手応えを感じています。
「初期メンバーは今、会社の中枢に近いところで力を発揮し、信頼して任せられる存在になってきました。また、部署を越えた、いろんな人のつながりもできつつあり、強い組織に向けて着実に前進しています。こうした動きが今後もっと広がっていくことを期待しています」(小林社長)
この3年間、LET’s活動と並行して、社名や会社ロゴ変更、本社移転、オフィスのフリーアドレス化、組織構造見直し、社内教育制度の確立なども行われてきました。そうしたさまざまな変革の相乗効果により、社内の空気は着実に変化しています。しかし、変革の到達度は「まだ6割」と小林社長。これまで以上に一人ひとりの思いが部署を超えてつながり、常に変化する会社へ。今後も先陣を切って走っていく考えです。
「JR本体も事業環境がどんどん変わるなか、過去のようにJRの仕事をきっちりこなしていれば安泰という時代ではありません。そんな環境変化もふまえると、新しいことへの挑戦を惜しまず素早くアクションを起こしていくことが、今後ますます重要です。まだ道半ばですが、変革や挑戦が当たり前のこととして社内に定着していったとき、地元に根差した事業の一層の充実とともに新たな事業の拡大にもつながっていくなど、会社の明るい未来が拓かれていくのではないでしょうか」
小林社長は、そう変革の先にある会社の成長を見据えています。