CASE #18 / 【特別対談】三穂電機株式会社・有限会社ソラ

エグゼクティブコーチングファミリービジネス承継体験者と語る、承継期における
「経営者1on1」の価値

HOMECASE【特別対談】三穂電機株式会社・有限会社ソラ

お話を伺ったみなさん

  • 写真中央:油原 一博氏
    三穂電機株式会社
    代表取締役社長
  • 写真右:北井 健二氏
    有限会社ソラ
    エグゼクティブ
    オフィサー

先代から会社を引き継いだばかりの経営者は、多くの葛藤や不安を抱えています。近年、そうした承継期の経営者を支える手法として、外部コーチによる1on1が注目を集めています。

ブリコルール代表の野元は、ファミリービジネスアドバイザーやコーチングの専門資格をもち、組織開発の現場で豊富な経験を積んできました。その知見をもとに、承継期の経営者に寄り添う1on1を実践しています。そこではどのようなことが行われ、経営者にとってどんな意味があるのでしょうか。実際に野元との1on1を行っているお二人をお招きし、座談会を実施しました。

ブリコルール野元の「経営者1on1」とは?承継期に求められるのは、ただの“コーチング”ではない

野元
本日は、野外イベントなどへの電源供給を行う三穂電機の社長・油原さんと、オリジナルジュエリーの企画・製造・販売を手がけるソラのエグゼクティブオフィサー・北井さんにお越しいただきました。
まず油原さんは、他社勤務を経て、お父様が経営していた三穂電機に入社し、数年後の2020年、5代目社長に就任されました。その翌2021年に1on1のご依頼をいただき、現在まで4年以上継続しています。
油原
経営者としてまだまだ経験が不足する中、コロナ禍という厳しい時期に社長となり、経営者のスキルをどの様に伸ばしていくべきか等、当初は悩みが尽きない状況でした。そんな中、野元さんと隔週で1on1ができたことは非常にありがたかったです。

三穂電機株式会社 油原氏

油原氏

野元
ソラさんとは、弊社ブリコルールが人事制度策定プロジェクトなどを支援した2019年頃からのお付き合いですが、北井さんの1on1を始めたのはちょうど一昨年の秋頃でした。
北井
はい。私は技術者として入社し、制作部門のマネジメントをしてきましたが、ある時、創業者である社長が突然引退を宣言し、予告なしにみんなの前で私を指名して「次はお前に任せる」と。心の準備ができていなくて戸惑い、野元さんに相談したのが始まりです。それから実質的な経営トップとして歩み始めて1年以上、「未来会議」という名で1on1を行ってきました。

有限会社ソラ 北井氏

北井氏

野元
お二人とも、カリスマ的なリーダーであった先代から会社を受け継ぐことになり、大きなプレッシャーや不安を抱えての船出となったと想像します。そんな中、1on1では様々なやり取りをしてきましたね。
経営者に対する1on1は「エグゼクティブコーチング」と呼ばれることもありますが、私は、一般的なコーチングとは異なるものと捉えています。それはなぜか、具体的にどこが異なるのか、お二人の体験談から明らかにしていきたいと思います。

ブリコルール 野元

野元

経営者1on1のスタイル経営者の悩みに伴走する中で生まれた「3つのスタンス」

野元
一般的なコーチングでは、ティーチングやコンサルティングは行いません。しかし、多くの悩みや課題を抱える承継期の経営者に伴走していて思うのは、「問題解決策を考えるのはあなたです」というスタンスでのコーチングだけでは不十分だということ。ですから私はお相手の個性やフェーズに合わせて、コーチング、ティーチング、コンサルティングという3つのスタンスを柔軟に使い分けながら1on1に取り組んでいます。

経営者1on1のスタイルを表す図

野元
この使い分けが現れていた1on1の場面について、一緒に振り返っていきたいと思います。まず、問いかけたり勇気づけたりするコーチングの部分について、印象に残っていることはありますか。
油原
最初の頃、自分の内面を探索するワークに取り組んだことをよく覚えています。私は内向的なタイプなので、「自分はどんな人間か表現してみてください」「苦手な人はいますか?それはなぜですか?」といった問いかけに答えるのは、正直気が進みませんでした。しかし取り組むうちに、不思議と心が軽くなっていく感覚がありました。漠然と「嫌だな」「怖いな」と思っていたことも、ひとつずつ見える化すると、意外と大したことではないと気づいていったのです。
北井
私が印象的だったのは、代替わりしたばかりの頃、あらゆる領域における自分なりの経営方針を言語化するよう求められたことです。「その内容を次回の1on1で聞かせてくださいね」と言われ、難しい課題だと思いつつも、負けず嫌いな性格もあって必死に取り組みました。2週間後、自分なりに考えた内容を披露し、野元さんから「すごい!」と言っていただけた時は、勝負に勝ったような嬉しさがありました。
野元
相手が言葉にしない部分も含めて丁寧な観察を心がけています。北井さんには「適切な問い」を整理してお渡しすれば必ず反応する方だから「きっとできる」と信じていました。
次に、ティーチングの部分では思い出されることはありますか。
北井
よく書籍を紹介いただきますよね。突然LINEで「これ読んだほうがいいよ!」と書籍の写真が送られてくることもあります。自分で手に取らないような分野の書籍を教えてくれるので、すぐ調べて読むようにしています。
油原
私も、学びを示唆いただいた経験はたくさんありますね。特に野元さんの得意分野である「ファミリービジネス」についての考え方や一般企業との違いを学べたことは、自分にとって非常に大きな意味がありました。実は同族企業という語感にあまり良いイメージがなかったので、自分がその社長になることに引け目があったんです。しかし、野元さんから長期的な視点で経営できるといったファミリービジネスの強みを教わり、胸を張れるようになった気がします。
野元
自分が学んだことや読んだ本の中から「〇〇さんに役立ちそうだ」と思った時はすぐお伝えするようにしているんです。業界の外側にも視野を広げ、自社を相対化することで新たに見えてくるものもあります。そんな気づきのきっかけになれば嬉しいですね。

湯原氏、北井氏、野元

野元
意見や提案といったコンサルティングの部分についてもお聞かせください。私は毎回、事前に、相手の方に必要と思われる情報や意見を整理して1on1に臨みます。そして、相手が話したいことを軸に進めつつ、自分が準備してきた提案も頃合いを見計らってお伝えするようにしています。
油原
組織開発のプロフェッショナルならではの視点かと思いますが、社員とのコミュニケーションについては繰り返し助言をいただいていますね。その中で始めた、社長から全社員への定期的なメッセージ発信は、今でも続く取り組みになりました。なかなか思うようには変わっていかない組織の根本的な理由を見いだせたのも良かったです。事業の特性が社員の思考や姿勢に強く影響していることを示唆していただきました。
北井
野元さんからの提案で驚いたのが、人事制度の改定を相談した際、「自分たちでやってみてはどうですか」と言われたことです。本来、人事制度づくりはブリコルールの専門領域であり、仕事として請けたほうが利益につながるはずです。それでも「大丈夫、できますよ」と内製化を後押ししていただきました。
野元
純粋に、北井さんなら高いお題も乗り越えられると思ったんですよね。その方がやる気になるでしょうし。できることは自分たちで取り組み、難しい部分は外注すればよい。その見極めをしたうえで、フラットに提案することを心がけています。1on1の貢献と、コンサルタントとしての貢献をできるだけ区別しようと心がけています。

アプローチ①視点の切り替え相手の視点、長期的な視点…ひとりでは見落としがちな部分に目を向ける

野元
そうした3つのスタンスで私が行っているアプローチを分解してみると、1つは、日々の業務に追われる中で見落としがちな視点を提示することだと考えています。対極の選択肢を示したり、長い時間軸で考えることを促したり、視点の切り替えによって思考を明確化し、強いリーダーシップを発揮していただくのが狙いです。

アプローチ①視点の切り替えの図

北井
先代の席に座ってみてと促され、実際に座ると、「先代からは、今、北井さんはどう見えていますか」と問われました。それはとても印象に残っています。物理的に視点を切り替えることで、先代の言動だけでなく、その奥にある人間性や感情にも思いを巡らせることができ、多くの気づきがありました。
油原
私は、ある事柄をどう進めるべきか相談した際、「やらないという選択肢もあるのではないか」と、考えていなかった選択肢を示されたことが思い出されます。最終的には実行するにしても、いったん別の視点から考えることで状況がクリアになり、決断の後押しになりました。

油原氏

野元
特に時間軸の切り替えは強く意識している点です。次々に到来する目前の課題に対応する中で、長期を見通す余裕がもてない経営者の方も多いですから。
油原
長期的な視点をもつということは頻繁に指摘をいただきますね。当社はイベント現場で即断即決が求められるため、長期的な視点をもつことが得意ではありません。だからこそ社長である私ぐらいは、先々の未来に目を向けて考えなくてはいけない、と。
北井
私も当初は数年先しか見ていませんでしたが、最近は20年先をイメージする感覚が少しずつ身についてきた気がします。会社が創業から約20年経ったことや、先代と私の年齢差が20歳であることもあり、20年後を見据えて自分に何ができるかを考える重要性を感じています。

北井氏、油原氏

アプローチ②領域の往来「会社」だけでなく「経営者個人」の課題にも寄り添い、伴走する

野元
1on1で話している内容を図にすると、「会社」「個人」「家族」の軸と、「過去」「現在」「未来」という時間軸で区分したマトリクスになりそうです。その方なりのコンテクストを大切にしながら各領域を行き来し、統合して悩みや課題の解決につなげるような展開を目指しています。

アプローチ②領域の往来の図

野元
経営者はとかく「会社」中心に考えざるをえず、「個人」の人生や思いの部分は後回しにしがちです。そこであえて「個人」に光を当て、一緒に考えることも私の役割の一つだと認識しています。
油原
確かに野元さんとはプライベートなこともよく話していますね。時には自分の弱い部分もさらけ出しているかもしれません(笑)。社内に対しては「個人」の側面を出しにくいですから、自分を主語にして話せる機会は非常に貴重です。 私は当初、5代続く会社をなんとしても次の世代につないでいかねばならない、社員を守らねばならないと、「会社」領域の義務感が強かったと思います。そのため、野元さんに「自分のしたいことは何ですか?」と聞かれた際、言葉に詰まってしまったこともありました。しかし対話を重ねる中で、自分の得意なことや好きなこと、苦手なことを少しずつ自覚し、私なりのやりたいことが見えてきた気がします。
北井
逆に私は、技術者として良いものを作りたいという「個人」の思いのほうが元々強く、「会社」の目線は後から身についた気がします。
昨年、すべての役職者を解任して全員フラットにするという思い切った組織改革に踏み切ったのも、「会社」の視点が育ってきたからこそです。社員の反発も予想されましたし、若い頃から一緒にやってきた仲間の気持ちを考えると本当に辛かった。しかし、「会社」の未来に目を向けた時、次の世代につなぐためには必要な決断だと思えたのです。一人ひとりと面談し、その思いを丁寧に伝えました。
野元
そうでしたね、事後に報告を受けた時は驚きました。個人としては決してやりたくないはずなのに、しっかりとやりきった。その覚悟と勇気に圧倒されました。

アプローチ③前進にこだわる思考整理で終わらない、ビジネスに前進を生み出すサイクルを回し続ける

野元
各回の1on1の内容は多岐にわたりますが、それらをつないでいくと1つのサイクルが見えてきます。問いかけ(コーチング)を起点に、示唆の提供(ティーチング)や状況整理(フレーミング)を行い、時には背中を押し(エンカレッジ)、前進の確認(アンカリング)をする。それを繰り返し循環させていくようなイメージです。

アプローチ③前進にこだわるの図

野元
特にエンカレッジやアンカリングは、ビジネスを前進させるパワーとなる重要なポイントだと考えています。
油原
そう思います。私は社長就任以降、社員を巻き込んだミッション・ビジョン・スピリットの策定や、人事制度の見直しなど、社内をガラッと変える取組も行ってきました。そのプロセスでは、課題を1つ解決すると新たな課題が2つも3つも生まれ、くじけそうになることも。野元さんの「大丈夫、前に進んでいますよ」といった励ましや、「やれることがたくさんあって良かったですね」という前向きな言葉に、何度も救われてきました。
北井
私は攻めの姿勢になりがちなタイプで、時々このままで良いのか不安になることもあります。その時、野元さんから「組織には守りと攻めの両方が必要です」「ソラという会社のユニークさを際立たせるには攻めも重要です」と言われ、自分の中で整理がついたことが思い出されます。

油原氏、北井氏

油原
「守りと攻め」という表現もそうですが、野元さんは言葉の選び方がとても上手ですよね。相談すると、いつも的確な言葉や表現で返してくれます。既存の組織を引き継ぎながら自分の色を出していくには、言葉の力が欠かせないので、野元さんからいただいた言葉をさまざまな場面で活用しています。
野元
どんどん使ってください。記憶に残るように、その方にフィットする言葉を工夫して表現しているつもりなので。
油原
言葉だけではなく色を使ったアプローチもありましたね。私の好きな色は青だと言ったら、いつも着けている青い時計を指し、「苦しい時はこの時計を見て頑張ってね」と。当時、新米社長としてプレッシャーを感じる場面が多かったので、時計から勇気をもらっていました。

「経営者1on1」を一言で表すなら?自分のポテンシャルを引き出したい、すべての経営者に必要

野元
さまざまな場面を振り返ってきましたが、私との1on1を一言で表すなら、どんな言葉になるでしょうか。
油原
「安心」という言葉が浮かびました。困難の多かった社長としての船出をそばで支え、勇気づけ続けてくれています。もやもやしていた気持ちを1on1でクリアにしながら、自信を持って会社経営に取り組むことができています。気づけば、会長に退いた父も最近は役員会にあまり出てこなくなりました。信頼して任せてくれているのだと思います。
北井
私は「共創の場」という言葉がしっくりきます。私が一方的に気づきや学びを受け取るだけでなく、野元さんにも何かしら提供できていると感じるからです。ソラをより良い会社にしていこうという共通の目的に向かって、お互いに刺激し合いながら共に進んでいる感覚が嬉しいですね。

野元

野元
では、最後の質問になります。経営者に対する1on1は、日本ではまだあまり浸透していませんが、ほかの経営者の方にもお薦めしたいと思いますか。
油原
はい、承継期には特にお薦めです。十分な準備や教育がないまま社長に就くと、どんなスキルが必要で、どう磨いていけばよいのかすら分からないものです。自分ひとりで学ぼうとしても限界があります。だからこそ、経験豊富な伴走者がついてくれることは非常に心強いと思います。
北井
私は、すべての経営者にお薦めしたい気持ちです。トップアスリートにも、パフォーマンスを最大化するためのコーチがつきます。同じように、力のある経営者であっても、自分では気づかないポテンシャルを引き出すコーチのような存在がいる価値は大きいのではないでしょうか。
野元
当事者の実感がこもったお話は大変貴重です。本日はありがとうございました。

3人で乾杯している

対談を終えて乾杯

編集後記

対談を通して、聞き手として印象に残ったのは、経営者が自分自身の1on1をあらためて振り返ったり、互いの感じていることを率直に言葉にしたりする機会が、実はとても少ないのではないかということでした。お互いに「そんなことを感じていたんですね」と驚き合う姿が、印象的でした。 乾杯の後のお食事では、ここまでの振り返りから、自然と未来の話へ。三穂電機様とソラ様のコラボレーションの可能性や、野元との共創によって広がる未来の構想へと、話題は軽やかに展開していきました。 経営者とともに事業を見つめながら、ときに自身のリソースを差し出し、その事業の未来にどう重ねていけるかを考え続ける。そうした関わり方が、「今ここ」を共に支え合ってきた関係を、これから先の可能性を夢想し合う関係へと自然に押し広げていっている…そんなことを感じた夜でした。

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