よく生きる研究所 代表

榎本 英剛野元 義久

「純粋意欲」が発揮される組織へ、
そして社会へ

HOMETalks「純粋意欲」が発揮される組織へ、そして社会へ

米国でコーチングに出会い、コーチ養成機関CTIジャパンの設立・運営によって、日本におけるコーチングの普及・発展に大きく貢献した榎本英剛氏。CTIジャパンの経営を退いた後は、「よく生きる研究所」代表として世界的市民運動の日本での展開や人類学研究の発信など幅広く活動されています。これまでも多彩な活動をしてきた榎本氏は、会社という「組織」や経営者・管理職の役割をどう捉え、さらに大きな枠組みである「社会」に対してはどんな思いをもっているのでしょうか。リクルート時代の同期であり、榎本氏からコーチングやリーダーシップを学び続けている野元がお話を伺いました。

コーチング第一人者が考える「組織」のあり方

野元

私たちはリクルートに同期入社しましたが、榎本さんは私より一足早い1994年に退職し、アメリカの大学院に留学されました。どんなことを考えての決断だったのでしょうか。

榎本

あまり先のことは考えず、「とにかく海外留学したい!」という気持ちが強かったですね。 大学院では組織開発を専攻していたのですが、たまたま専門外として聴講した「自分らしく生きて生計を立てるには」という風変わりな授業に惹かれたことをきっかけに、自分の関心が「組織をどうするか」よりも「人がどう生きるか」にあるのだと自覚するようになっていったんです。

当時の日本では、終身雇用の崩壊とともに自分のキャリアは自分で切り拓くという考え方が急速に広がり、自身のキャリアに悩む人が急増した時代でした。そんな人達に対して何かサポートできることがあるかもしれないと思い、人が生き生きと仕事をすることをテーマに研究を進め、ワークショップを開発、実践するようになりました。

野元

当時の日本ではあまり知られていなかったコーチングに出会ったのも、そのころでしょうか。

榎本

はい。キャリアに悩む人へのサポートとして、ワークショップを実施するだけでは不十分ではないか、生き生きと仕事ができるようになるまでのプロセスを継続的にサポートする必要があるのではないかと感じていたところ、複数の人からコーチングという考え方と手法を紹介され、The Coaches Training Institute (CTI) という会社が提供するプログラムでコーアクティブ・コーチング®を学び、プロフェッショナルコーチの資格まで取得しました。

野元

その経験が、帰国後にCTIジャパンというコーチ養成の会社設立につながったんですね。

榎本

はい。コーチングを学んで自分自身がものすごく啓発されたので、“よい映画や本に出会ったら多くの人シェアしたくなる”のと同じように、コーチングも自分だけのものにしてはいけないと思ったんです。その思いに共感してくれる人たちが集まり、仲間になってくれました。その集まりに、CTIジャパンと言う名前をつけたという感覚です。

榎本 英剛氏

野元

最初に会社があって仲間が集まるのではなく、志を同じくする仲間が集まった結果として会社になった…とは、とても興味深いです。榎本さんは、ずばり「会社」とは、「組織」とは何だと捉えていますか。

榎本

その問いについては、リクルート在籍中から考えていました。同じ社章を着けているから「組織」なのだろうか…、同じ目標を目指して一緒に働くアルバイターさんや外部ブレーンさんも含めて「組織」なのではなかろうか…などと。

リクルートを退職するとき、先輩に言われたことが印象に残っています。「『自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ』(旧リクルート社訓)というスピリットをもっている奴は、どこに行っても仲間だよ」。その言葉にハッとさせられて、思わず「これからもよろしくお願いします」と言って会社を去りました。

そんな経験もあって、組織とは「同じ志をもって集まってきた人たち」という感覚があります。僕は十数年前にCTIジャパンの経営を退き、現在は個人事業主ですが、活動には本当にたくさんの人たちが絡んでくれています。その人たちとの関係性は、僕にとって「組織」です。孤独でもないし、一人でやっているという気負いもないですね。

企業理念は「共感のプロセス」が重要

野元

榎本さんの近くにいると、なぜか動かされてしまいますね。それは近しい志が触発され合って昂っていく感じです。「組織」を考えるうえで、同じ志をもつこと、つまり理念の共有は一つの重要ポイントですね。

当社は、経営トップの思いを言語化して理念を策定し、その社内浸透を支援することも多いのですが、実は最近になって、この「浸透」という言葉がなんだか上からの押しつけを想起してしまいそうで、若干の違和感をもっています。理念は「間にあるもの」だから、トップは丁寧に理念の文脈を語り、社員側もこの理念に同舟するかという選択のプロセスが重要だと考えています。

野元義久

榎本

そうですよね。そのとき注意したほうがいいと思うのが、上から期待される答えが透けて見えるようなやり方では意味がないということです。「現場の考えを聞かせてほしい」と言ったとしても、人にはいわば「意図のセンサー」みたいなものがあって、相手がどういう意図で言っているのかを瞬時にキャッチします。「あなたの意見は?」という言い方であっても、「こう言ってほしいな」という意図は伝わってしまうのです。そうなると社員にとっては理念に対するオーナーシップは感じられないことでしょう。

要は、“コミュニケーションの形”ではなく、“ベースにある人間観”の問題なのだと思います。相手を人として尊重する眼差しさえあれば、どんな形であっても相手は受け取ってくれるのではないでしょうか。

野元

コーチングを学ぶ過程では、この「こう言ってほしいな」という意図を脇に置く練習に苦労した覚えがあります。確かに「意図のセンサー」ってありますよね。誘導的な問いを重ねるくらいなら、いっそ「私はこれが答えだと思っている」とはっきり伝えたほうがいいと思います。そのうえで、自分の答えを脇に置いて「あなたはどう思う?」と問うて、その意見を受け止められるか、ですね。

経営者・管理職が、社員の力を最大化するには

野元

榎本さんは著書『本当の仕事』の中で、心からやりたいと思う「純粋意欲」を仕事に活かすことの重要性を説いています。単なる「意欲」ではなく、「純粋意欲」なんですね。

榎本

「誰かに言われたから」「ほかの人がやっているから」といった他人の評価を基にした『やりたい』とは区別し、自分の奥底から湧いてくる『やりたい』という気持ちを純粋意欲と呼んでいます。やらされ感ではなく、純粋意欲に素直に従うことが、自分のもてる可能性を最大限に発揮することにつながると考えています。

野元

すべての社員が自分の純粋意欲に従って動くと、会社にとっては面倒なことが増えそうな気もします。統制が取れなくなる。「つべこべ言わずやれ」と上司の指示・命令に従わせたほうが手っ取り早いことも多いですから。

榎本

今はそう言っていられない状況だと思います。なぜなら、技術革新によって商品力や技術力の差はすぐに埋められてしまう現代、いったい何で企業間の競争優位性を高めたらいいかというと、それは、もはや「人」しかない。「人」が本来もっている力をどれだけ出せるかが鍵です。いくら優秀だと言われる人でも、やらされ感でやる仕事では本来の力の半分も出ないかもしれません。でも、心からやりたいと思える仕事なら100%の出力だって期待できます。事業に関わる一人ひとりの出力を最大化することは、事業体としての出力の最大化につながるでしょう。

ですから経営者や管理職は、事業の可能性を高めたいのであれば、メンバーがそれぞれ何を大事にしてどこにやりがいを感じているかに寄り添うことが大切だと思います。

野元

人の可能性を心から信じている榎本さんらしい言葉ですね。とはいえ、自分の純粋意欲は何かがわからないという人は、突然「やりたいことをやってください」と言われても困ってしまいます。経営者や管理職の皆さんは、観察や問い掛けによってメンバーの気づきを促していくことも必要ですね。

榎本

それこそが管理職の最も重要な役割だと思います。
純粋意欲を取り扱うワークショップを行っていても、自分のやりたいことに気づいていない人の多さを実感します。他者から「今、話している表情がすごくイキイキしている。あなたはそれがとても好きなんだねー」と指摘され、本人が初めて自覚するというケースは多いのです。

ですから、管理職がメンバーと一緒に働いている中で、純粋意欲の在りかを観察し、それをフィードバックしていくことは非常に重要です。キャリア研修のようなイベントを実施する以上に、そうした日常のやりとりが役立つのではないでしょうか。

野元

すぐに見つけられなくても、探し続けることが大切ですね。周囲からのフィードバックや、自分のなんとなくの感覚をきっかけにして、やりたいことを言語化してみることは効果がありそうです。一度言葉にして表現してみると、改めて自らを探求するきっかけになりますから。12年前のリーダーシッププログラムで、榎本さんに導かれて言葉にした私の純粋意欲も、すでに何度かブラッシュアップされています。

榎本

そうですね。仮説でいいので、頭の中にあることをちょっと声に出してみたり、書き出してみたりする。それで自分はどこに響くのか、どこに違和感があるのかを感じてみるのは、非常に役立つ作業だと思います。

また、その表現の手段は必ずしも言語である必要はなく、絵でも歌でもいいから自分のエネルギーを表現してみるといいのではないでしょうか。

榎本 英剛氏・野元義久

自分の「仕事」を、職業名ではなく存在意義で語る

野元

自分の純粋意欲が見えてきても、それを仕事にどう結びつけるかは難しいところですね。
例えば、うちの小学生の息子は絵を描くのが好きですが、「じゃあ将来は絵描きだね」みたいな発想はダメだと思うんです。絵を描くという行為のなかでも、デッサンが楽しいのか、彩色に心が躍るのか、誰かに見てもらうことが喜びなのか…どこに萌えるかは人によって違います。そこを分解して考える必要があるのではないでしょうか。

榎本

そう思います。僕の娘が「歌手になりたい」と言って音楽大学に進学したとき、ひとつだけ伝えたのは「歌手にならねばならない、と職業を決めつけないほうがいい」ということでした。歌を歌うことが好きだという気持ちを大事にしていけば、それを表現する方法は歌手以外にもたくさんあるはずだから、自分の可能性を狭めないでほしいと思ったんです。

野元

われわれ大人達にも通じる話ですね。同じ仕事に従事していてもどこに好きなポイントがあるかは人それぞれです。自分の仕事を「営業」「研究者」「エンジニア」のように職業名だけで説明するのは不十分です。

榎本

そこで、仕事を職業名ではなく自身の「存在意義」で捉えてみてはどうか、というのが僕からの提案です。
存在意義とは、「人生の目的」や「生きがい」、あるいは「パーパス」と言い替えてもいいものです。例えば「美しい自然を守る」「すべての人に思いやりを持って接する」といったものになるでしょう。

もちろん職業名は自分が何者かを表現する方法の一つですが、それが自分のアイデンティティであるかのように捉えることは危険だと思います。技術革新や社会情勢などによって、その職業はいつ消滅してもおかしくないのですから。

一方、存在意義を仕事として捉えたとき、その仕事が消滅するリスクはなくなります。職業が消えようが、会社がなくなろうが、自分次第で仕事をし続けることができるのです。

榎本 英剛氏

野元

そういえば、私は先日、こんな「仕事」をしました。
組織コンサルタントとしてのファシリテーション経験を生かして、息子の小学校で「話し合いの進め方」をテーマに特別授業を行い、そのなかで「多数決は戦争につながる」という話をしたんです。その話が子どもたちの心に響いたようで、その後は「安易に多数決で決めないで、もうちょっと話し合ってみよう」と話し合いが変わったそうです。

私の場合、この仕事を通じて何を成したいのかを突き詰めると、「戦争をなくす」とか「略奪や強制をなくす」いうことに行きつきます。ですから、子どもたちへの特別授業も重要な「仕事」の一部ですね。

大人たちが自分の仕事を存在意義で語るようになると、世の中はもっと面白くなりそうです!

人類をエンパワーしていきたい

野元

榎本さんはこれまで、コーチ養成機関の設立・運営のほか、天職を自ら創るためのプログラムや自分らしく生きるためのプログラムの開発・提供、世界的な市民活動の日本での展開など、多彩な活動をしてこられました。榎本さんはご自身の「仕事」をどうお考えでしょうか。

榎本

傍からはばらばらな活動をしてきたように見えるかもしれませんが、実は一貫しています。ひと言で表すと「エンパワー」という言葉になります。その対象が、コーチングでは「人」、市民活動では「地域」と変化しているのですが、そのものがもっている本来の力を最大発揮するのをサポートするという点では共通しています。

野元

最近は米国の大学院の博士課程で学ばれていますね。そこにはどんな思いがあるのでしょうか。

榎本

人をエンパワーするにあたって、これまでは心理学的・哲学的アプローチを中心に行ってきました。しかし、そもそも社会が人間の可能性を引き出すような仕組みになっていないと、いくらコーチングやセミナーをやっても限界があります。この人の可能性を押さえつけている社会という仕組みは一体何なんだろう?と、すごく気になってきたんです。

そこで、人類学という分野からアプローチしてみようと、大学院で学び始めました。人類学は社会学や歴史、政治、経済なども包含して非常に幅広く、悪戦苦闘していますが、ちょっとずつ社会のからくりが見えてきているところです。

現状をしっかり理解したうえで、みんながもっと純粋意欲に沿って生きられる社会にするためにはどう仕組みを変えればよいかを考えていき、ひいては世界に人間復興の嵐を巻き起こしたいんです。

人類は気候変動やら戦争やらいろんな問題を生み出し、それを解決できていません。意志さえあれば解決できるはずなのに、いろんな理由をつけてやろうとしていないだけだと思います。人類のもつ力はこの程度なのか? いや、こんなもんじゃないでしょう! 人類が本来もっている力を思い出して発揮していくことをエンパワーしたい。その思いが、今の僕を突き動かしているのです。

野元

定期的にオンライン勉強会を開催され、榎本さんが学んだ内容をシェアしてくださっています。私も参加させていただき、非常に大きな刺激を受けています。

榎本

自分一人で学んでいると、現実が見えてくるにしたがって苦しくなり、放り出したい衝動に駆られます。そのなかで皆さんと学びをシェアする機会があると、僕自身の学びを深めることにもなりますし、応援してくれる人たちがいるという実感が僕に力を与えてくれています。僕のほうこそ皆さんにエンパワーされていると、とても感謝しています。

野元

これからも共にがんばっていきましょう。本日はありがとうございました。

榎本 英剛氏・野元義久

GUEST PROFILE

榎本 英剛(えのもと ひでたけ)

一橋大学法学部卒業。株式会社リクルート勤務を経て、米国の大学院CIIS (California Institute of Integral Studies)に留学。そこでCTI(The Coaches Training Institute)のコーアクティブ・コーチングに出会い、帰国後、株式会社CTIジャパン(現・ウエイクアップ)を創立。持続可能な未来を市民の手で創るための市民活動であるトランジション・タウンおよびチェンジ・ザ・ドリームを日本に紹介。現在、よく生きる研究所においてこれまでのさまざまな活動の根底にある要素の統合、表現を試みるとともに、CIISのAnthropology and Social Change (人類学と社会変革)博士課程にチャレンジ中。著書に『部下を伸ばすコーチング』(PHP研究所)、『本当の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『本当の自分を生きる』(春秋社)、『僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる』(地湧の杜)、翻訳に関わった書籍に『バーチャル・チーム』(ダイヤモンド社)、『コーチング・バイブル』(東洋経済新報社)、『トランジション・ハンドブック』(第三書館)、『アクティブ・ホープ』(春秋社)がある。

よく生きる研究所:https://www.yokuikiru.jp/index.html

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