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「創発的破壊」が可能となった現代、これから先に来るもの

水田 先生は「創発的破壊」という著書で「一人ひとりの小さな営みが大きなうねりとなって現状を創発的に破壊し、新しい均衡点をつくる」と述べておられます。イノベーションというと、少数の天才の手によるものと思いがちです。

米倉教授 アメリカで学んだ時アバナシー博士とクラーク博士がイノベーションの類型化について研究していました。その中の「レギュラーイノベーションが大切でそれが競争力の源泉になる」という考え方には驚きました。その後、中東でジャスミン革命が起きました。CIAが30年間倒したいと思っていたけど倒せなかったカダフィーやムバラクの独裁政権の崩壊。その引き金は、FacebookやTwitterのつぶやき。こんな小さな力でも巨大な権力が倒れるんだということが明らかになりました。日本の組織も同じことが言えるのではないだろうか。一人ひとり、あるいは小さな組織が起点となって、大きなうねりを興すことは可能なんだと思ったのです。ただ問題は、ジャスミン革命が起こった中東から、創発的破壊が生まれても創発的創造はまだ生まれない。残念ながら中東からは依然として創造的な秩序が生まれてこない。

水田 その実践のヒントが近著の「2枚目の名刺 未来を変える働き方」なんですよね。キーワードはプロフェッショナリズムの涵養とその資源の多重利用だと思います。

米倉教授 そう。2枚目の名刺をつくって一歩踏み出そう、ということが創発の始まりです。一歩外に出てみると、自分のことも客観的に見ることができます。例えば自分は経理のプロだと思っている人が、ボランティアに参加してみると全然数字が見れない、経理の力が活かせない。そこで会社にとって経理とはどういうことが大事なのかと、改めて自分で考え始める。外で学んだことが会社で活かせる。社内で漫然と仕事をしているだけでは、人間は伸びない。目的意識を持った時に初めて成長出来る。自分の本当にやりたいことがわかる、ということなんです。

水田 先生は別のある対談の中で、イノベーションに必要なことは1にマネジメントチーム2にマネジメントチーム、3も4もマネジメントチームで5によいアイディアということを話していらっしゃいました。

米倉教授 僕はアイディアというのは結構出ると思っています。日本でも有数のスーパープログラマーが立ち上げた会社があって、その会社がプログラミングをクリック&ドラッグでできるようにした。面白いのは、最初からプログラミングの塊ができているから、みんなでアイディアを出していく作業を見える化したことなんですね。一人で作っているとアイディアが個人の中だけに閉じてしまうのが、プロジェクターに映し出して5〜6人で見ながらやると「それ全然面白くない、こっちでしょう!」とかどんどんアイディアが出てきてより面白いものができる。ところがその会社は100人という社員がいるのに売上がたったの10億円しかない。そこで思ったのが、日本にはエリック・シュミットとか、ジョン・チェンバーズみたいなマネジメントにプロフェッショナリズムを持った人が少ないこと。だから本当にすごいベンチャーが出てこない。たいてい、「これ面白いな」と思ったらそのアイディアを思いついた人が社長をやり続けている。でも、そういう人は本来社長なんてやらなくていい。「俺が売りまくってやるから、開発だけしてて」と言う人とそのチームが必要なんだと思います。

水田 プロフェッショナリズムや専門性が活かせないということですね。

米倉教授 そう。僕たちの生活を今一番面白くしているのはFacebookやGoogleやYouTube。世界最大のタクシー会社のUBERは一台もタクシーを持っていないし、Airbnbは一つもホテルを持っていない。誰でも思いつくアイディアだけど、ビジネスモデルとして洗練させてマネジメントチームがすごい額の資金を集めている。日本企業がこれに勝つのは大変だと思います。

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創発の時代に現場に求められるもの

水田 プロフェッショナリズムや専門性を伸ばす上で仕事の現場に求められることとは何でしょうか。

米倉教授 3つほどあるかな。

まず1つは失敗を笑わないこと。アフリカのリーダーシップアカデミーというところでは、南アフリカ54カ国、裕福な人から貧しい人まで、優秀な子供達を年間60人集め、リーダーシップ教育とアントレプレナーシップ教育(企業家教育)をする。僕の定義では、企業家とはイノベーションを起こす人であって、会社を起こす人じゃない。だから「起業家」という字は使わないで「企業家」にしてます。看護師でも公務員でも、イノベーションを起こす人は企業家。ここで面白いと思ったのが、失敗をさせる教育をしていること。safe environment(安全な環境)で失敗させる訓練をひたすら行い、世界一の人材を育てる。日本は失敗させる教育をもっとしないとね。日本は転んだヤツを笑う。座っていたヤツが、歩いて転んだヤツを笑うなんてあり得ない。歩いてくれてありがとう、という姿勢が大事。

それから、出来るだけ自由を認めること。自由にすると組織がめちゃくちゃになるんじゃないか、忠誠心が無くなるんじゃないか、と思う人がいるのだけど、それは逆。自由にさせられればさせられるほど、義理人情の浪花節なのよ。僕もその意味では一橋大学に感謝している(笑)。「俺がこの会社を引っ張っている」と言う人ほど皆の足を引っ張っていて、「いつでも辞めてやる」と言う人ほど会社を支えているということがある。本当にやりたいことをやっていてすごく会社に貢献もしているけど「ぐちゃぐちゃ言うなら辞めるぜ」って言っているくらいの気概がある人間の方が、本当は会社を引っ張っていたりするんだよね。

そしてもう1つが、いい人材を惹き付けるような経験や学びの場を作ること。そういう人材をひきつける現場をつくらないとダメだと思う。世界は人材をめぐる戦場です。お金だけでいい人材を呼び込めるほど甘くないのです。

水田 「2枚目の名刺 未来を変える働き方」でも、積極的な意味での役割の兼務の奨励や、Googleなどで実施されている20%ルール(業務時間の20%相当を自分のしたいことに充てるという仕組み)や、社内ベンチャー制度などの工夫に触れておられますね。

米倉教授 そう。資源の多重利用は別に社外だけの話ではない。社内でも出来る。前述したように、会社側から見ると人材の獲得競争です。いい人材をとった会社が勝ちという世界。年収が半分になっても、やりがいや面白さによって仕事を選ぶ人はいる。20〜30代に本当に面白い仕事をしたいと思っている人は、そういう覚悟を持っている。

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