BLOGa

  • 2019.12.03

    『みんなで育てる仕組みづくり』vol.1

    野元義久

    ◆◆育てられたい若者たち/育てられない先輩たち◆◆

    「どうせ隠してんでしょ?」

    なんでこの人にバレているんだろう。
    隠してるとは言わないまでも、確かに小出しにはしていた。私の営業成績にはきちんとその小出し行為が反映されていて、目標達成率は常に60%から80%の幅の中におさまっていた。
    この中の上レベルの成績であれば“ほめられはしないが、厳しく問い詰められもしない”し“そんなにがんばり過ぎない”という自分にとっての快適ゾーンである。若くしてこれを見つけてしまっていた。

    当時の職場では若手を育てるための「出げいこ制度」があった。自分の数字を稼ぐための営業日数は一日減るが、違う課の先輩に一日同行して、その人の営業のやり方やものの考え方を学ぶ制度だ。なんとなく自分のやり方で毎日を過ごしてしまうよりも、売れている先輩が何をしているのかを目の当たりにする学びは翌日からの自分の行動の基準を変える。
    私は1年上の先輩で、常に目標を外さない隣の課のスーパー営業パーソンから「おれに付け」と指名を受けた。それは強く印象に残る日になった(よって、28年過ぎた今でもこうして思い出して書いている)。
    どの新聞のどこを読んで何を考えるのか?それだけでも全然違っていた。彼は広告欄を丁寧に読む。「広告を出すってことは切実な何かがあるんだよ。それこそが企業のニーズだな」
    お客様先とお客様先の間の移動時間でやることも違う。彼は違う事業部の同期にかたっぱしから連絡をしていた。「会社の看板しょってやってるんだから、他の事業部のことを理解しておくのは当然でしょ。それにたまにお客様を紹介したり・されたりってこともあるよ」という考えだった。
    「おまえ、移動中は何してんの?」と訊かれ、しどろもどろに答えたが何と答えたかは覚えていない。その頃、移動中はマンガを読んでいたと思う。

    出げいこを終え、会社に戻る電車待ちのホームで彼が「ホントはどのくらいの商談を持ってんの?どうせ、隠してんでしょ?」と核心に迫る問いを投げてきた。肯定も否定もしないで無言でいる私に「いいか。来月、ぜんぶ契約まで持っていきな。そしたら何か変わるよ。とにかく、全部だ。やってみな」と熱く冷たくもない雰囲気で言葉をつづけた。私は神の啓示を受けたかのように、勢いとか恐れからではなく「あ、そうしてみよ」と素直に思った。

    翌月、すんなりと目標達成してしまい、ゲームでいう一面をクリアした私はその面白さにのめりこみ、それから課長になるまで目標を外したことはない。その先輩を含めた稼ぎ頭の一員として、周囲に認めてもらうこともできた。認めてもらえると“次も外さないぞ。外せないぞ”という気持ちになり、業績という意味では好循環に入っていった。

    毎週、課内での指導面談はあったが、この出げいこが強く記憶に残っている。同じ課の先輩の指導が悪かったわけではなく、その関係ややり取りがマンネリになっていたのだろうと思う(その同じ課の先輩はその後に起業し上場まで導くほどの優秀な方で、受け取る私に欠陥があったことは間違いない)。

    隣の課の先輩が私に、目を覚ます質問と魔法の言葉(アドバイス)でゲームをクリアする方法を教えてくれた。“自分にもできる”と思わせてくれた。彼にとっては出げいこ制度があったとはいえ、隣の後輩への指導は“やらなくても済むこと”である。

    しかし、この“やらなくても済むこと”をやることが今こそ大事だと思う。

    今やどの会社でも上司やお客様からの要求はエスカレートしつづけ、多くの職場でみんなが自分のことに精一杯になっています。
    まずはとにかく自分に課せられた目の前の仕事を終わらせねばならない。それはプレイングを兼ねた課長も同じです。すると後輩や部下の面倒をみることは仕方なく後回しになる。そこに悪気はない。その後回しがなくなるように、会社は課長に定期的なメンバーとの1on1面談を課す。しかし、部下の成長のために、目を覚ます質問や魔法のアドバイスを提供したいはずの1on1だったはずが、受ける部下からは「仕事の進捗確認の回数が増えただけ」と言われてしまう。
    新人育成でも同じです。課長でも限界がきているのに、新人育成担当を担うメンター1人だけにに教育・指導を押し付けるのは無理がある。実際、育成を任せたいレベルの部下には、他の仕事もたくさん任せてしまっているはずだ。

    そもそもマンツーマンの指導体制にも弱点はある。
    指導内容が偏ったり、新鮮さがなくなったりする。同じポイントでも伝え方のちょっとした違いで、理解できなかったり、逆にスッと入ってくることがある。私にもマシントレーニングで「肩を下げて!」と10年間言われつづけても出来なかったことが、最近ジムを変えて「脇腹で支えて」と言われて肩が自然と下がるようになった経験がある。
    親の話には素直になれない子でも、たまに会うおじさんからの新鮮なアドバイスなら聞いてみるかもしれない。プロ野球のキャンプで臨時コーチ制度があるのも、伝え方の違いの効果をねらっているのだろうと思う。

    若手は、より成長できる環境を求めて転職を思いつく。メンターがその兆しを見逃してしまうと、進んだ転職活動を引き戻すことは難しい。育てられたいのは成長したいという純粋な欲求である。メンターも手を抜いているわけではない。だから今こそ考え方を変えてみる必要があります。

    これからの数回で、新人を含む若手の指導育成において、一人に頼り過ぎず、寄ってたかって「みんなで育てる」という考え方を以下の3つに分けて紹介したい。
    ①「みんなで育てる」フォーメーション
    ②「みんなで育てる」プロセス
    ③「みんなで育てる」コミュニケーション

メルマガ購読希望の方はこちら

メールアドレス
お名前

会社名

2015 copyrights BRICOLEUR