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  • 2020.01.10

    『みんなで育てる仕組みづくり』vol.2

    野元義久

    月刊『人事マネジメント』に掲載の「みんなで育てる」仕組みづくりを
    5回に分けてご紹介しております。

    ◆◆「みんなで育てる」フォーメーション ◆◆

    ■育成に必要な関わりを分解する

    メンターが一人で関わる場合は、指導対象者への関りを丁寧に分解しなくてもいい。思いついたことを手当たり次第にやっていたとしても、 “常にひとつしか伝えない”ので指導対象者は混乱しない。

    しかし、みんなで一人に関わるとなると交通整理が必要になる。
    だれがいつ関わるかというタイミングだけでなく、それぞれが関わる内容も整理しておかなければたちまちカオスになってしまう。まだカオスから学べるほどのスキルがないのが指導の対象者なので、事故が起きないようにこちらで配慮せねばならない。みんなで関り効果を上げるために、想定できる障害は回避しておきたい。

    指導育成に必要な関わりは以下の4つに分けられる。

    ア) 従わせる(指示)
    定まっている手順に基づいて細かな指示を与え、間違わないようその通りの行動をさせる。

    イ) やり方を考えさせる(業務支援)
    必要な情報を提供したり、障害になりそうなことを先回りで予防した上で、自分で考えたやり方で行動させる。

    ウ) 振返らせる(内省支援)
    本人が考え方ややり方を見直すために質問をして、自分で学び・考え・決めて・行動することを促す。

    エ) 紐解く(精神的支援)
    過度な感情の高ぶり(または落ち込み)を抑えたり、情報におぼれている状態から救うために話を聴いたり整理してあげることで仕事に向かう態勢を整えさせる。
    ※中原淳氏「職場学習論 仕事の学びを科学する」を参照した私の定義。

    実際の指導育成の現場では、これらの関りを出したり引いたりすることになる。

    例えば、
    “従わせようと打合せを始めたが、どうも雰囲気がおかしい。最近のことを振り返らせる質問をしてみると、本人は自分のスキルが追い付いていないことをなげいて落ち込んでいるようだ。そこでちょっと落ち着かせるために、状況整理を手伝ってあげる……”
    こんなケースはよくある。よってメンターは、その場に適した関わりカードをいつでも切れるように訓練していなければならない。いつでもなんでもできることが求められている。

    しかし、「みんなで育てるメンターチーム」がつくれたら、一人がなんでもいつでもできる必要はない。メンターチームに入ったそれぞれが、適したタイミングでそれぞれ自分の得意な関りをやればいい。みんなの負担は少なくなります。
    指導対象者の混乱も少なくなる。忙しい中で一人のメンターが矢継ぎ早に関り方を切り替えると “さっきまでと違うぞ。この人は指示する人なのか、寄り添ってくれる人なのか、わからないな。ということは本心はわからないぞ。それがわかるまでは距離を置いた方が無難だ”となってしまうこともあります。メンター側の意図がわからないと指導対象者の不要な混乱を招きかねません。

    ■関りの基準を共有しておく

    4つの関りをどのように使い分けるか?
    使い分ける基準をメンターチームで目線合わせすることです。それぞれが得意だからといって、タイミングを間違ってはムダな関りになります。

    例えば、「どんな場面では従わせるか?どんな指導対象者の場合には、まずは従わせるか?」という問いを話し合ってみるといいでしょう
    メンターに集まってもらったワークショップでは、こんな意見があがります
    ・急いでいる時は、従ってもらう。
    ・決まっていることは、従ってもらう。
    ・経験が乏しい仕事の場合は、従ってもらう。
    ・十分な情報を持っていない場合は、従ってもらう。
    逆にそうでない場面では、従ってもらう関りよりもやり方を考えさせる関りを優先しようということになります。

    そしてこの基準は、指導対象者にも伝えておくことをおすすめしています。
    多くの人が「はじめは“考えてみて”って言われたのに、途中で“もういい、こうして”って指示された」という経験をしている。メンターが関りを切り替えた理由がわからず、不信へとつながる。過去を思い出して感情的に“あれは、はしごを外す卑怯なやり方だ!”と怒りをあらわにする人もいる。
    メンターにとっては状況が変わり急がなければならなくなったかもしれない。だとしたら、その背景を説明しなければ、ただ乱暴な人だと思われてしまいます。

    関りの基準を先に伝えておくと、指導対象者も受け止めてくれやすくなります。急に“従って”となったのだから、状況が変わったのかもしれないと想像するようになる。「先輩、状況が変わって急ぐことになったのですか?」と尋ねられる関係ができていたなら互いの歩み寄りがよい方向に進んでいます。

    ■関りの角度を計画する

    それぞれが得意な関り方を活かすだけでなく、まずは立場や関係性を活かした関り方の効果を抑えておきましょう。

    先に紹介した中原氏の研究では、
    ・上司の「精神的支援」「内省支援」
    ・上位者・先輩の「内省支援」
    ・同僚・同期の「内省支援」「業務支援」
    が指導対象者の能力向上に効果的であったと書かれています。

    ワークショップで聞く課長の振り返りによると「自分は最も多いのが業務支援で、精神的支援はおっかなびっくり(飲みに誘うのも断られないように気を使って声をかけている)で、内省支援はほとんどできていない」という実態が大勢のようです。

    28年前に隣の課の先輩は、私に、まさに効果的な内省支援をしてくれました。
    “振り返らせる関り”はどの立場・関係からでも有効です。逆に、直属上長からの“やり方を考えてもらう関り”はさほど効果がない。それは同僚・同期などの近い立場の人に任せた方が、丁寧で具体的で、かつ新しい情報が加わった支援になるため効果的なようです。

    研究結果をうのみにする必要はありませんが、4つの関りの配分をメンターチームで計画しておくことをおすすめします。そして定期的にその計画の実践と効果を振り返ってみるとよいでしょう。

    ■質問を訓練する

    本人の自主性を高め学びを促す“振返らせる(内省支援)関り”は、どの立場・関りからも有効です。
    振り返らせるとはすなわち、こちらからは“フィードバック情報を添えて質問をする”ということです。メンターチームのみんなが上手く質問をくり出すことができれば、指導対象者は自分で考えているという実感が増して楽しくなり、メンターは(相手が自分で考えてくれるので)楽になります。

    しかし多くのビジネスパーソンはこれまで“話すこと”を練習していても“質問する”ことをトレーニングしていません。質問が上手くできないのです。子供のころから自主性・自責性、主体性という言葉が重んじられてきた環境で私たちには、自分でなんとかすることが大事でした。
    仕事をするようになると、さらにそれは強く求められる。質問をするということは、考えることや決めることを相手に委ねることになる。大事な仕事のこととなればなおさら、相手に答を委ねてしまうのは不安でしかたない。よって、“話す”とか“自分で考える・決めること”、“相手を説得すること・論破すること”で身を守ることが強化されてきました。もちろんその力はこれからも必要です。

    一方で、自分の力だけでは解決できないことが増えています。これまでわかっている方法で解決できる技術的課題はどんどん解決していけたとしても、やり方のわからない課題や何度も繰り返して起きてしまう課題(これらを課題ごとに適応を要する適応課題と呼ぶ)にはみんなの知恵が必要です。他の人の知恵を借りて難しい課題を解決するための“質問する力”はこれからさらに注目されるでしょう。

    指導対象者の成長をうながすためにもメンターは振り返らせる質問の力を備える必要があります。
    質問の訓練には2つの鍵があります。
    ア)場所をねらって質問する
    イ)自分の“話したい感覚”につまみを合わせる

    ア)の「場所をねらった質問」とは、相手に考えて欲しい場所を明らかにした上での狙いを持った質問です。狙いはありますが、欲しい答を決めつけている質問ではありません。それは誘導質問と呼びます。なお、誘導質問はよほどの詐欺師でもない限り、相手にばれて信頼を失います。やめましょう。
    ねらうということはなんとなく質問しないということです。指導対象者の成長を促すためには、どこ(=場所)を振り返ってもらうのかをねらって質問します。

    たとえば、以下の質問を使い分ける訓練をしてみてください。

    i. 段取り力の向上を狙った質問
    「その仕事の目的は何だったか?」
    「誰に・何を・いつ働きかけるとよかったか?」
    「何が・なぜできた/できなかったのか?次はどうするか?」

    ii. 思考力の向上を狙った質問
    「考えるべきことは何だったか?」
    「問いに答えていたか?」
    「それは本当か?だから何なのか?」

    iii. 説明力の向上を狙った質問
    「何を伝えたのか?」
    「どんな順番で伝えたのか?」
    「どのように伝えたか?」

    iv. 問題解決力の向上を狙った質問
    「それを解決すると誰にとって何がよかったのか?」
    「Why(なぜ?)を何回も繰り返したか?」
    「実行するイメージはわいていたか?」

    指導対象者に限らず、これらの質問が行き交う職場になれば経験から学んでいくメンバーが増えていきます。この質問リストを定例会議に持ち込んで、メンバーの振り返りを促そうとしている方もいます。

    次の「イ)自分の“話したい感覚”につまみを合わせる」はスキルというよりスタンスです(“つまみ”はラジオのチューニングをするときのダイヤルをイメージしてたとえています)。質問しながらも自分で答を出したくなる自分に気づいてダイヤルを調整する力です。先述の通りに、私たちは質問に答えることが大好物で、質問されると自動的に答を考えてしまうのです。尊重すべき人間の特性です。そして、その力を発揮してきたからこそメンターを任される人になったことと思います。この答を出したくなる自分にチューニングを合わせて、その兆しを自覚して、“答えないでいること”が大切です。

    忘れていけないのは目的です。目的は指導対象者の成長であり、その成長を促すための手段としての質問です。自分で質問しながら、自分で答えてはいけません。答えたくなるのは仕方ないので、その答えたくなった自分に早く気づいて“考えて答えたくなった自分を脇に置く”ことを訓練します。

    たとえばメンター側は「提案」と「アドバイス」を禁じ手にして、指導対象者の悩みに応対してみてください。悩みが深刻であるほどに提案したくなります。もしその悩みが自分の悩み経験と近ければもう我慢できません!“それはこうしたらいいよ。絶対。私もさ、こんなことがあってね・・”……ここから先は一方的な演説になることでしょう。自分より目下の人の悩みで、自分が苦労した結果に解決したものと似た悩みには語りたくなるものです。その語りたくなる感覚に早く気づいて自制できるようになるには繰り返しの訓練しかありません。

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